7月19日からのアンケートのまとめです。

配慮がよく行き届いた様子についての言葉の使い方を伺いました。
もれなく行き届いた対応は「きめ細やか」な対応? それとも「きめ細か」?
きめ細やか 54.3%
きめ細か 34%
いずれも使う 11.7%

回答から見ることのできる解説では、多くの辞書に採録されているのは「きめこまか」ないし「きめこまかい」だと書きましたが、それら辞書とは相反する結果になりました。「きめ細やか」が過半を占め、「きめ細か」は3分の1。「いずれも使う」を選んだ人を入れても「きめ細か」は半数に届かず、一方の「きめ細やか」は「いずれも使う」を含めれば3分の2になります。


メディア界では「きめこまか」が“正解”


新聞・通信社の用語のルールを載せた用語集は、多くが「きめ」という見出し語を立てています。木の板に表れる模様を意味する「木目(もくめ、きめ)」と、皮膚などの表面を意味する「肌理」の表記と使い分けについて載せるためです。「肌理」は常用漢字表に含まれていない独特な読み方のため、新聞などでは平仮名の「きめ」と表記します。比喩的に使われるのもこちら。「木目」の方は「木目込み細工」など限られた場面で使われます。

2社の用語集が「きめ細かな指導」「きめ細かな観察」という用例を載せて、「きめ細やかな」と書くことがないように誘導しています。「きめ細やか」を載せている社は一社もありません。日本語学者で三省堂国語辞典の編集委員でもある飯間浩明さんのツイッターによると、NHKはニュース番組の字幕で「きめ細やか」と流した際、番組内で「きめ細か」に訂正するアナウンスをしたとのこと。視聴者から問い合わせの電話でも入ったのだろうか、と想像しますが、やはりメディア界では「きめ細か」が一応の「正解」とされているようです。

毎日新聞用語集より

これはおそらく、気配りなどが濃密であるさまを示す「濃やか」(常用漢字表にない読みなので新聞では「こまやか」と表記)と「細やか」を使い分けるに当たって、「濃やか」の方であれば「きめ」を付けるまでもなく、心がこもってよく気がつく様子を表すことができるためでしょう。毎日新聞用語集でも「こまやか」の使い分けについては「細やか〔こまかい〕」に対して「こまやか←(濃)〔濃い、情が深い〕」としており、「こまやかな心遣い」という用例を載せています。「きめこまやか」は「濃やか」と「きめ細か」の交ざったような表現と受け止められており、支持を得られないのだろうと考えます。

しかし辞書を見ていても「きめこまやか」が現れることはあります。辞典サイト「ジャパンナレッジ」の日本国語大辞典(2版)で全文検索をかけると、見出し語は「きめごまか」なのですが、「せいこう【精工】」の項目の冒頭には「きめこまやかな細工」と出てきます。「みつ【密】」の②としても「ゆきとどいていること。きめこまやかなこと」とあり、辞書をつくる日本語のプロたちにとっても、少なくともうっかり紛れ込む程度には、なじんだ言い回しであると言えるでしょう。


控えたい「誤用」視


回答からの解説にも書きましたが、「こまか」と「こまやか」に実質的な違いがあるかというのも疑問です。広辞苑(7版)で「こまやか」を引くと「①小さいさま。②くわしいさま」という順番で語義が掲載されているのですが、これは「こまか」の項目と同じです。広辞苑の語義の順番は「語源に近いものから列記」とありますから、そもそもは「こまか」も「こまやか」も同様の語であり、現代においても同じように使うことに妨げはないのではないでしょうか。

もちろん慣用というものもありますし、表記の統一という観点からも、メディアが「きめ細か」を使うこととする、というのは一概に否定されるべき態度とは言えません。ただし一方で、辞書の多くとは食い違うことになりますが、「きめ細やか」が十分に普及した言い回しであるということは今回のアンケートにも表れていると考えます。校閲記者としては「きめ細やか」を「きめ細か」に直す場合はあり得るのですが、このように意味上の不都合がなく、普及している言葉については「誤用」と言うのは控えたいものです。


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