4月19日からのアンケートのまとめです。
野球の言い回し。「三振に打ち取る」って、おかしいですか?
打たせていないのでおかしい 55.8%
おかしくない 44.2%

「おかしい」と感じる人が過半数という結果に。「打たせていないので」と書いたことが誘導的な役割を果たしたかもしれませんが、「三振」に「打ち取る」はなじまないと感じる人が多数いることが分かりました。

「うちとる」という言葉はもちろん、日本で野球が行われるはるか以前から使われています。日本国語大辞典(2版)は「うちとる」の項で、10世紀の「将門記」の一節「妻子同じく共に討ち取られぬ」という例文を提示。当該の小項目の説明は「武器を使って相手を殺す。切り殺したり、撃ち殺したりする。しとめる」とまず物騒なものながら、「しとめる」の意では野球でも使えそうです。

日本国語大辞典(精選版)

実際に、次の小項目では野球にも触れており、「試合などで相手を負かす。特に、野球で投手がバッターをアウトにしとめる」としています。要するに「バッターをうちとる」というのは武器を取っての戦いからの比喩表現で、ボールを「うつ」必要はないということ。この理解であれば「三振にうちとる」も問題なさそうです。

表記が気になる向きもあるかと思いますが、新編日本古典文学全集(小学館)の「太平記」には「敵あまた打ち取つて」という表記も出ていますから、「討ち取る」「打ち取る」で実質的な違いはありません。「三振にしとめる」の意味で「三振に打ち取る」と書くことがあっても、問題はないと言えるでしょう。

しかし、「野球で打たせてアウトにする」(新選国語辞典9版)や「〔野球で〕(打たせて)アウトにする」(三省堂国語辞典7版)のように、打たせることを前提に含む辞典もあるのは事実です。これは「討ち取る」と「打ち取る」とで使い分けが進んだことが影響しているかもしれません。

三省堂国語辞典第7版

上述のように「しとめる」の意では、「打ち取る」「討ち取る」の間で実質的な意味の違いはありませんでした。しかし、近年は、異字同訓の漢字は使い分けることが推奨されます。共同通信社の用語集(13版)でも
▼打ち取る〔野球など〕外野フライに打ち取った
▼討ち取る〔征伐〕敵の大将を討ち取った
という使い分け例を載せています。

文化審議会国語分科会の「異字同訓の使い分け例」(2014年)は、「うつ」の項目で「打つ:強く当てる、たたく、あることを行う」「討つ:相手を攻め滅ぼす」という意味の区別を示しています。これは使い分けのガイドであると同時に、現在行われている使い分け方を反映した記述でもあって、いまは「相手に勝つ」という意味では「打つ」をあまり使わないということが分かります。

「三振に打ち取る」は「おかしい」と違和感を持つのは、こうした使い分けを反映した感じ方だと考えます。「打つ」というのは「討つ」とは異なる「たたく」という意味である以上、バッターを「打ち取る」というならば、バットでボールをたたいた上でアウトにしなければいけない――現行の使い分けから判断するなら、うなずける話ではあるのです。

毎日新聞用語集より

ところで毎日新聞用語集は「うちとる」の項目に「三振に打ち取る」を例示しています。回答からの解説に「『三振に打ち取る』はおかしいのでは?」と聞いてきた後輩がいた、と書きましたが、毎日新聞としては「問題ない」というのが公式見解です。後輩は用語集をちゃんと見ていなかったのか、それとも納得がいかなかったのか。後者だったとしたら、こちらは聞かれたその時にきちんと答えられたかどうか、今さら心配になってきました。


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