氷点下20度にもなる真冬の隣国で繰り広げられた熱き戦い――。先月開催された平昌五輪では、日本人選手が獲得したメダル数が過去最多となり、日本中が大いに盛り上がりました。

毎日新聞も連日たくさんの五輪の記事をお伝えしましたが、その中で校閲をしていて気になったものを2週にわたって取り上げたいと思います。


スノーボードの記事を読んでいた先輩から「スノーボードの場合、滑って『とぶ』は『飛ぶ』かなあ? それとも『跳ぶ』のほう?」と聞かれました。

私自身は言われるまで全く疑問に思わなかったため、別のスノーボードの記事で「大きく飛ぶ」とあるのをそのまま通したのですが、言われてみると「跳ぶ」のほうがいいような?


同じジャンプを「とぶ」でも、スキーのジャンプでは「飛ぶ」、フィギュアスケートでは「跳ぶ」とするように使い分けがあります。

大倉山ジャンプ競技場 by シンタロ

辞書を引いてみると、「飛ぶ」は「スキー競技で、規定のジャンプを行って空中を飛行する」(明鏡国語辞典2版)、「飛」は「空をかける。とびあがる」(角川新字源改訂新版)とあり、「跳ぶ」は「足で床や地面をけって空中にはね上がる。また、はね上がって物の上を越える」(明鏡2版)、「跳」は「はねる。とぶ。はねあがる」(新字源改訂新版)とあります。

スキーのジャンプもフィギュアも、ともにジャンプ(跳躍)をしていることに変わりはないのですが、前者はジャンプした後の滑空に重きが置かれるため「飛ぶ」が、後者は氷を蹴って跳びながら回転する技を見せるため「跳ぶ」が用いられます。毎日新聞の用語集でも使い分けとして、「飛ぶ」は「飛行、飛躍」、「跳ぶ」は「跳躍」としています。

毎日新聞用語集

これらを踏まえると、スノーボードの「とぶ」はどちらにしたらよいでしょうか。

ジャンプすることで回転技が成立するので「跳ぶ」を使うのがいいような気がしますが、ハーフパイプ、スロープスタイル、ビッグエアなどは滞空時間も長く、「飛び上がって」いる感じもします。特に「ビッグエア」なんて言われると「飛ぶ」としたくなる気も……。

そのためか毎日新聞の過去記事を調べてみても、スノーボードでは「飛ぶ」「跳ぶ」どちらの表記も使われていました。ただ個人的な意見としては「跳ぶ」の方がふさわしいのではと考えます。

スノーボードのジャンプは、スキーのように空中を飛行して飛距離を競うものではなく、フィギュアのように回転技を繰り出すことに重きを置いているものだからです。つまり「飛び上がる」というよりは「跳ね上がる」ジャンプなので、「跳ぶ」がより適切な気がします。

場合によっては「跳ぶ」「飛ぶ」が混在することも

一方、「高く飛び出し、着地もきれいに決め」「ジャンプは高く飛び上がって」などの表現は「飛」にしました。

「飛び出す」は比喩の場合も含め「飛」で統一しており、またこれらのケースでは、空中に高く上がることに焦点が当たっているためです。基本は「跳ぶ」だとしても、文脈によって使い分ける必要がありそうです。

同じようにフリースタイルスキーのモーグルも、華麗なジャンプ(エア)を行う競技ですが、空中を飛行するというよりも技を決めるための跳躍であるので、エアを「跳ぶ」が適切でしょう。

再来年には東京五輪があります。引き続き選手の「飛躍」に期待したいですね。
【佐原慶】



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