先日、本紙の校閲特集で、人名について取り上げました。その中で「崇」と「祟」の取り違えが頻出だと書きましたが、皆さんは名前を間違えられたことがありますか?


我が校閲グループの新入社員、西本竜太朗くん。入社する前から「ホラ、あの、今度入る、西村京太郎サスペンスみたいな名前の子」と言われていました。(ごめんなさい)

実際に西本くんが入社してから話を聞いてみると、「僕の名前はトラップだらけなんです」と苦笑します。「西本」は必ずと言っていいほど「西村」に間違えられるし、名は竜太「郎」ではなく竜太「朗」。加えて彼の名前、読み方は「りゅうたろう」ではなく「りょうたろう」なのです。


この三つのトラップに掛からずにキミの名をサッとコンプリートする人が現れたならば、それはキミに恋心を抱いている人ではないか、とすら先輩は思ったわけです。(セクハラですか? ごめんなさい)

大事な人の名前は、絶対に間違えたくないですよね。それはその文字の連なりが、自分にとって二つとない特別なものだから。ばらばらにするとなんでもない文字なのに、並べて完成させた途端、特別な意味を持ってしまう。名前って不思議です。


新聞紙面に出てくる名前をチェックする時、そんな「この人を思う誰か」にがっかりされないように努力しています。あまりに取り違えが多いため、原稿に現れると緊張する文字がいくつかあるほどです。

たとえば、「亨」と「享」、「裕」と「祐」、「祐」と「佑」、「彗」と「慧」、「淳」と「惇」、「巳」と「已」と「己」――など。過去記事でこれらの間違いによる「おわび」を調べてみると、とんでもないものを発見してしまいました。

おわびして訂正します。○○隆之氏は「隆幸」、○○正己氏は「正巳」、○○淳氏は「惇」、○○壺男氏は「壹男」、○○修介氏は「脩介」、徳武○○氏は「徳竹」――の誤りでした。

ある意味、トラップのコンプリートです…。数十年前の記事でした。もちろん名字も気が抜けず、「柳沼容疑者」が1カ所だけ「柳沢」になっていて訂正を出したこともあります。「西本」「西村」現象と同じで、少しだけメジャーな方にペンが引っ張られるのでしょうか。


先輩によっては、まず固有名詞にだけ丸をつけて拾っていくという人もいます。一般の人だけでなく、田原総一「朗」さん、小椋「佳」さん、松任谷由「実」さん、阿部慎之「助」選手など、どんな著名人であっても油断ならない人名です。


西本くんに聞いてみました。「西村くんって呼ばれたら、どう思う?」

「慣れちゃいました。あえて訂正することもないかな、とすら。状況によりますけど……」

「誰に間違えられたら怒りますか?」

「怒ることはないと思いますよ」

心が広いなあ。私は友達の結婚式の招待状に「湯浅由紀」とあって以来、その子と疎遠になりましたけどね。
【湯浅悠紀】





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