「政治と揺れる言葉」がテーマの〈読めますか?〉の結果は「存亡の機」(正解率67%)など。文化庁国語世論調査が誤解を招くのは、「天下の宝刀」など明らかな誤用と「存亡の危機」など間違いと言い切れない語を並べるからではないでしょうか。
〈読めますか?〉結果

この週のテーマは「政治と揺れる言葉」でした。

この「読めますか?」ではしばらく、政治用語そのものというわけではないけれど政治と関連付けられる言葉を続けます。


正解
伝家でんか 82%
てんか 10%
でんけ 8%
「伝家」は現代では「伝家の宝刀」でしか使わない言葉ではないでしょうか。それさえも、もしかしたら新聞など一部のメディアしか常用していない言葉かもしれません。首相による解散が「伝家の宝刀」というのは衆院解散のたびに繰り返される言葉です。また、野球で「伝家の宝刀のフォーク」という表現も手あかがついているほどよく使われます。しかし、一般の人が日常会話で使う言葉ではないでしょう。

出題時の解説で紹介したように、文化庁の2012年度の国語に関する世論調査では「いよいよのときに使う、とっておきの手段」のことを31.7%が「天下の宝刀」と答えました。「伝家の宝刀」は54.6%で、マスコミが好んで使うこの表現の方が多いことは多いのですが、「天下の宝刀」という答えも無視できないほどのパーセンテージでした。おそらく、一般的には「伝家」なんて言葉は使わないため、よく知られた「天下」という言葉の方に引き寄せられる人が少なくないと思われます。


正解
存亡の機そんぼうのき 67%
そんぼうのとき 26%
そんもうのはた 7%
次に、今年9月に発表された文化庁国語に関する世論調査で、新聞各紙が見出しなどで話題にした「存亡の機」。使い方の問題であって読みにくい語ではないと思っていましたが、3人に1人が誤答の読み方を選んでいます。この結果は、この言葉があまり一般的ではないことを示唆しています。

実は国語辞典でも「存亡の機」という形で載せているものはさほど多くはありません。日本国語大辞典広辞苑大辞林など大きめの辞書にありますが、小型国語辞典では掲載されているものが見当たりません。その代わりにあるのは「危急存亡の秋(とき)」です。集英社国語辞典は「存亡の機」は採録せず用例に「国家存亡の危機」を挙げています。

原稿に「存亡の危機」が出たとき校閲として、文化庁が「本来」とする「存亡の機」に直すべきか、職場では時々議論になるのですが、「直すべきではない」という意見の一つとして「存亡の機という言い回しを知らない読者は『存亡の危機』の『危』の脱字と思うのではないか」という声がありました。今回の世論調査で「存亡の機」を使う人が6.6%という結果が出て、その懸念が当たっている気がしました。しかも小型国語辞典には「存亡の機」が載っていないので、そういう辞書しか持っていない読者は確認が難しいわけです。

小型国語辞典の一つ「三省堂国語辞典」に携わっている国語学者の飯間浩明さんは9月21日のツイートでこうつぶやいています。
文化庁「国語に関する世論調査」の項目の意図が不明です。「存亡の機」を使う人が少ない事実がどんな文教政策に役立つのか。私が「存亡の危機」誤用説を日本語本で見たのは昨年でしたが、司馬遼太郎・阿川弘之など名文家も使っているし、「存続か滅亡かの危機」という意味で、不自然でもありません。
Twitter
別の人の意見として「存亡の危機」と「存亡の機」は意味が違い、「存亡の機」が本来の用法と言い切れない、というのもあります。

どうやら「存亡の危機」を誤用と見なすのは無理があるようです。そもそも文化庁もこれを誤用と言っているわけではありません。ただ、この調査を受け取る側が「存亡の危機は誤用」との根拠の怪しい説を拡散させる可能性はあります。


正解
侃々諤々かんかんがくがく 72%
けんけんごうごう 23%
かんかんごうごう 5%
最後に「侃々諤々」。以前出題した「喧々囂々(けんけんごうごう)」と混同しやすい言葉です。ざっくりした分け方ですが「かんかんがくがく」の方が真剣な議論という意味合いが出ます。何しろ喧々囂々の「喧」は「やかましい」という意味ですから。だから選挙などで「喧々囂々たる議論を望む」なんていうのは誤用といえます。侃々諤々・喧々囂々については文化庁の調査はないようですが、昔からよくある誤用例として本などに記されています。

初めに戻って「首相による解散は天下の宝刀」というのも明らかに間違いです。文化庁の調査が誤解を招くのは、こういう明らかな誤用と、「存亡の危機」のように必ずしも間違いといえない語を一緒くたに並べていることではないでしょうか。我々は文化庁がいう「本来でない」を単純に「誤用」と受け取ってはならず、自分で正誤の判断を下さなければならないと思います。


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