サイトの読者の方から「はる」の表記について質問をいただきました。例えば新聞で「ポスターを張る」と書かれていると、ご質問の方は「貼る」ではないかと違和感があるそうです。

新聞では、以前はあまり気にすることはありませんでした。常用漢字表に「貼」が入っておらず、ほとんどの「はる」は「張」で書いていたからです。

2010年の常用漢字表改定で「貼(チョウ、はる)」が入り、張との使い分けが必要になりました。毎日新聞用語集ではその目安をこのように書いています。

張……一般用語。取り付ける、広がる
貼……限定用語。のりなどで付ける、付着

それぞれ用例も示していますが、張のうち「氷が張る」などについてはあまり迷わないと思います。使い分けを考える際に用語担当者が頭を悩ませたのはポスターなどを「はる」場合です。

辞書をいくつか引いてみると、それぞれ項目の立て方、書き分けの示し方など微妙に違いがあります。「ポスターをはる」などに当たる意味での書き方について、どう示しているでしょうか。

 「新明解国語辞典」
項目名:はる【張る】
語釈:〔布や網などを〕一定面接にわたってしわやへこみの無いように伸ばし広げたり糸・ひも・綱や針金などを一直線に伸ばし渡したりする
書き分け:語釈を列挙した後に、「付着の場合は、『貼る』とも書く」と注意書き
 「三省堂国語辞典」
項目名:はる【張る】 はる【貼る】
語釈:はる【貼る】〔のりなどで〕表面につける
 「広辞苑」
項目名:はる【張る】
語釈:ひらたくのばして、糊(のり)・釘(くぎ)などで他の物につける
書き分け:上記語釈のところに「『貼る』とも書く」
 「大辞林」
項目名:はる【張る】
書き分け:「表記」という注意書きを設け、その中で「『貼る』は“糊などでくっつける。表面にはりつける”の意」
 「大辞泉」
項目名:はる【張る】
語釈:「(『貼る』とも書く)のりなどでくっつける」「(『貼る』とも書く)板などを平らに並べて打ちつける」
 「日本国語大辞典」
項目名:はる【張・貼】
語釈:(貼)平らな薄いものをとり付ける

日本国語大辞典は文献に基づく用例を挙げていますが、貼を使ったものが一つもありませんでした。仮名書きか、「緑色の切れを張った脇息が」(森鴎外「鼠坂」)のように張の用例があります。古くは貼を当てる習慣がなかったのかもしれません。

こうして辞書を見ていくと、新聞が貼を使わず張に統一していたのは無理なことでもないが、使い分けができるならした方がいい……そんなふうに思いましたが、いかがでしょうか。


漢字そのものの意味はどうでしょう。漢和辞典によると、貼には「ぺったりとへばりつく」(「新漢和大字典」学習研究社)という意味があるそうですから、やはり「のりづけ」にはこちらが合いそうです。


「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)にも、「張・貼」の使い分けについて「ほとんどの場合は『張』を用いる。特に、平たいものをある面に密着させる場合には、『貼』を使う」と書かれています。

この「密着」をどのくらいの密着から貼にするかというところで、判断の差が生じると思われます。

「ポスターをはる」場合、のりを広く塗ってぺったりはりつけることもあるかもしれませんが、四隅を画びょうなどで留めるだけのことも多く、それは「密着」とは言えないと考える人がいるかもしれませんし、薄いものが平面にぴったりとり付けられて見えるのだから、貼だと考える人も多いでしょう。

一方、「ポスターをはる」と言う場合、どういう方法ではるかというより、要は掲示するということを言いたいだけのことが多いのではないでしょうか。

毎日新聞用語集から

掲示することが言いたい場合は張にしましょう——というのが毎日新聞の書き方なのです。貼より張の方が多く使われているように見えるのはそのためでしょう。また、貼が常用漢字表に入るまで長年、張で代用してきて、それほどは違和感なく使っていたため、「とりあえず張にしておけば大丈夫」という感覚でいることも影響しているかもしれません。

とはいえ、前出「漢字の使い分けときあかし辞典」の著者でフリーの漢和辞典編集者、円満字二郎さんは「『張』は、もともとは“弓の両端に弦を掛ける”ことで“空中を渡っている”というイメージが強いので、“密着”という意味合いを含む『はる』に対して用いるのは、ふさわしくない」とも書いています。

ご質問の方のように、貼を使うべきところなのに張が使われているように違和感を持つ人がいることも考慮しなければなりません。

辞書にあるように、貼はあくまで限定的な使い方になるとは思いますが、「とりあえず張にしておけば……」などという逃げ腰でなく、「のりなどで密着させる」意味で使っていると判断すれば、迷わず「貼」で表記するようにしなければと肝に銘じました。
【平山泉】


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