原稿を出す方の部のデスクから「このケはどちらのケですか」のように聞かれることがあります。

校閲としては答えは簡単で「どこでもどなたであっても大きいケにしています」。
地名・人名によくある「ケ」のことです。東京の駅名だけでも「霞ケ関」「梅ケ丘」など数多くあります。

固有名詞でなくても、「6ケ月」「1ケ○○円」などと身の回りで「ケ」を見かけます(新聞では「6カ月」「1個○○円」と書きますが)。まるで片仮名のケを「が」や「か」「こ」と読むかのようです。しかし、これらは形はケであっても片仮名ではありません。漢字の「个」からできた、あるいは「箇」の竹かんむりの一方を使って、記号のように使われてきたものだそうです。

そう、あくまで記号です。


漢字の字体の違いなどの場合ですと、「この人の名は沢田さん、あの人の名は澤田さんと書く」といったこともありえます(とはいえ、同じ字なので、原則として新聞では「沢」を使うようにしています)。

しかし、記号を記号っぽく小さくして「ヶ」と書くか、見やすいように大きく「ケ」と書くかは、漢字の字体とは違って「人により」「土地により」というわけにはいきません。新聞としては、どちらかに決めるしかないのです。


例えば、東京都杉並区阿佐谷南(これはケなし)にあるJRの駅。どう表記しているのか見に行きました。車内の電光表示で「阿佐ケ谷」でしたが、細かい字が表示しにくいからとも考えられます。ホームに降りると「阿佐ケ谷」という表示が見えました。


改札を出ると地下鉄の案内表示があり、「南阿佐ヶ谷駅」と小さいヶになっています。地下鉄はヶなのでしょうか。


外から駅の建物を見ると、あら、「JR阿佐ヶ谷駅」と小さいヶではありませんか。


少し歩いて地下鉄の駅に。ここは「南阿佐ケ谷駅」でした。


いかにも確からしい表示でさえ表記が割れていますが、記号だからこそのおおらかさなのかなと思いました。


「ヶ」を統一表記としている固有名詞もありますが、毎日新聞の紙面上は「ケ」と表記させてもらっています。20年以上前、筆者が入社したときにはすでに「ケ」とすることになっていました。10年上の先輩に尋ねると「ただでさえ新聞の字は小さくて見づらいのだから、大きい方がいいということだよ」ということでした。
【平山泉】


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