教科書では、カギかっこ(「 」)の中でも文の終わりに当たるところには句点(。)を打っているのに、新聞では閉じかっこの直前に句点を付けていないのはなぜか、というお尋ねをいただいたことがあります。

「小学国語2下」(教育出版)の「ないた赤おに」より

このご指摘はその通りで、行政の公用文や教科書などはカギかっこの中でも文の終止に句点を打つのが標準とされています。これは、1946年3月に当時の文部省教科書局調査課国語調査室で作成した「くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)」という文書にのっとったものです。表題に「(案)」とありますように、この文書は内閣告示のような正式文書になりませんでした。しかし、句読点に関する公式機関の文書がこれ以外にほぼなかったため、「(案)」のままでいろいろな資料に収録されていて、現在もこれに準拠していることが多いのです。


さて、このような文書があるにもかかわらず、新聞が閉じかっこの直前に句点を付けない理由ですが、正直なところはっきりとは分かりません。毎日新聞で確認できるところでは、1956年に発行された毎日用語集の「区切り符号の使い方」の項に既に、〝三、「 」( )の中の文の最後には「。」をつけない〟とあり、戦後の早い時点で句点を付けないことにしていたようです。


この当時は新聞も活字で組んでいました。閉じかっこの前にも句点を打つと当然句点が増え、どうしても句点や閉じかっこが行頭になってしまうことが多く、更に「句点―閉じカッコ―句点」とつながりますから、いわゆる禁則処理を手作業で頻繁にしなければならなくなります。新聞製作は時間の制約が大きく、こうした作業を繰り返す事態を避けるため、句点を省いたということもあったと思います。

現在は活字の頃のようなことはなく、機械的な禁則処理が可能になりましたが、それでも閉じかっこの前に句点を打つことはしません。その大きな理由はやはり字数の問題です。報道の文章においては、発言や文書の引用が多く登場します。その全ての終止箇所に句点を打ちますとかなりの字数を消費するため、結果として読者の方にお伝えする情報の量が減ってしまいます。少しでも字数を確保するために節約できるところは節約しよう、という意味の規則でもあります。また、閉じかっこのある箇所は、文の終止であることがほぼ自明の場合が多く、読者の方に文意を理解していただく上でこの箇所の句点は必須とまでは言えないと思います。


おそらく以上のような理由で、新聞・出版の多くは閉じかっこの直前に句点を付けない方式を採用していることが多いのだと思います。もちろん、作家の方の文章などで閉じかっこの直前に句点をつけているものなどについてはそのまま掲載していますが、新聞、雑誌の地の文については文字数の節約に大変苦労していることもあり、おおむね打たない方式になっています。

教育に与える影響などを勘案すると、教科書の表記法とは食い違わない方がよいと思います。しかし、新聞の役割としては、やはり報道が第一と考えています。多くの読者の方々に理解される分かりやすい記事・文章のためには、字数を確保するということの方に重きを置くべきだと思います。

先述の「くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)」には「くぎり符号の適用は一種の修辞でもあるから、文の論理的なすぢみちを乱さない範囲内で自由に加減し、あるひはこの案を参考として更に他の符号を使つてもよい。なほ、読者の年齢や知識の程度に応じて、その適用について手心を加へるべきである」とあります。多少の弾力的運用は許されるということだと思います。細かいことのようですが、読みやすい記事・文章のため、という新聞本来の目的に深く関係している規則です。
【松居秀記】


「毎日ことば」の本★3月25日発売
最近の記事
「毎日ことば」のアカウント 
「毎日ことば」トップページへ
 
Top