新聞の訂正記事に関する本を取り上げた11月5日の毎日新聞の特集紙面(ウェブ版はこちら)では米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が出した訂正を集めた本「Kill Duck Before Serving」もご紹介しました。今回は、同書などからいくつかの話題を取り上げます。

「1075年」の新聞

訂正を扱ったNYTのコラム。「1075年」の新聞が掲げられている

1975年3月に、NYTの1面の題字下に表示されている日付が「1075年」と印刷されてしまったことがありました。次の日、NYTは以下のような訂正を出しました。

「昨日、本紙はミラノで発生した暴動と、続いて起きた宗教改革運動家エルレンバルドの暗殺について報じませんでした。事件は1075年、昨日の1面に印刷された年に起きました。本紙はミラノでの事件と年の間違いの両方を遺憾に思います」
In yesterday's issue, The New York Times did not report on riots in Milan and the subsequent murder of the lay religious reformer Erlembald. These events took place in 1075, the year given in the dateline under the nameplate on Page 1. The Times regrets both incidents.


2000年5月の訂正では「ジェームズ・ディーンをスターにした映画のタイトルは、『理由ある反抗』(Rebel With a Cause)ではなく『理由なき反抗』(Rebel Without a Cause)でした」。
An article misstated the title of the 1955 film that made James Dean a star. It is ''Rebel Without a Cause,'' not ''Rebel With a Cause.''


1984年9月の訂正は次のようなもの。「転記ミスが原因で、テルアビブ発の特報内に誤りがありました。国家宗教党党首のヨセフ・ブルグ氏をイスラエル政治の「ベドウィン」としましたが、正しくは「ベテラン」でした。
Because of a transcription error, a dispatch from Tel Aviv on negotiations for a new Israeli government referred incorrectly to Yosef Burg, leader of the National Religious Party. It should have described him as a veteran (not Bedouin) in Israeli politics.
※「ベドウィン」はアラブの遊牧民のこと

「訂正コラム」が人気

1987年8月の写真説明「ハーディング大統領が暗殺され、クーリッジがホワイトハウス入りした」。ハーディング米大統領(1865~1923年)は在任中に死去しましたが、暗殺ではなく病死でした。

この話がのっているのが「The Times Regrets the Error. Readers Don’t.」というNYTのウェブサイト内のコラムです。題名「タイムズは誤りを遺憾に思います。読者はそうでもありません」が示唆するように、訂正を扱ったコラムは読者に人気があるようです。50年以上前からNYT社の経営者であるザルツバーガー家のつづりを一度ならず間違ったことがあることに言及した「Regrettable Spellings? We’ve Had a Few」(遺憾なスペルミスもいくつかありました)のほか、同様のコラムがいくつか存在します。



NYTには校閲部門はない

同書を読んで大変驚いたのですが、ニューヨーク・タイムズには校閲部門がないそうです。活字が原稿通りに組まれているのを確認する校正者(プルーフリーダー)は、紙面制作のコンピューター化が進んだ「1970年代に米国のほぼすべての新聞社から姿を消した」といいます。

記事に事実関係の誤りがないかをチェックする担当者(ファクトチェッカー)もおらず、記者は自分の原稿を自らチェックすることになっており、編集者は時間に余裕がある時(「万一時間に余裕があれば」と書いてあります)には事実確認をするそうです。

米誌「ニューヨーカー」などでファクトチェッカーを務めたサラ・ハリソン・スミスさんの書いた「The Fact Checker’s Bible」には「ほとんどの新聞はファクトチェックされていない」から「ファクトチェックする際に新聞に頼るのは避けた方がよい」と書いてあります。

NYTの編集幹部によると「日刊の新聞制作では締め切りまでの時間が少なすぎるため、ファクトチェッカーを置いていない」のだそうです。


日々の仕事の中でとんでもない変換ミスや重大な事実誤認にしばしば出合っている私にとっては、記事のチェック専従者がいないというのは信じられないことです。原稿を書いた本人がチェックする「筆者校閲」があてにならないのも校閲記者の間では常識で、「よくそれでやっていけるなあ」というのが正直な感想です。

日本の全国紙はすべて校閲部門を持っており、多くの人間がことば遣いや事実関係のチェックに従事しています。

米国の新聞がどのようにつくられているのか、いつか現地で会社見学をしてみたいものだと思っています。
【田村剛】


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