「建物と工事」がテーマの〈読めますか?〉で最も難しかったのは「一簣」(正解率27%)。「九仞(きゅうじん)の功を一簣に虧(か)く」ということわざが、盛り土を欠いた市場を連想させたことからの出題で、簣というのは日本では「もっこ」。
〈読めますか?〉結果

この週は「建物と工事」がテーマ。連日報道される豊洲市場の「盛り土」問題がきっかけであることはお分かりだと思います。

梲が上がる街並み by Jiroh

新聞では「盛り土」に普通ルビは振りませんが、先日ニュースを分かりやすく解説する記事で例外的に「盛(も)り土(ど)」と振ったところ、「もりつち」ではないかと複数の読者から電話があったとのことです。「大辞林」のように「もりつち」に「もりど」も併記している辞書もありますが、「もりつち」しか載せていないものも少なからずありますので、もっともな疑問です。ただし土木関係の一種の業界用語としては「もりど」の方が通用している実態があります。このニュースの盛り土は土木工事関係そのものですので、テレビでも「もりど」と読んでいるようです。


正解
伏魔殿ふくまでん 82%
ふしまでん 15%
ふせまでん 3%
さて、9月のある日、ネットで検索数急上昇のワードとして「伏魔殿」があるのを見たとき、どうして今?と不思議でした。毎日新聞では当初書かれていなかったので分からなかったのですが、石原慎太郎元知事が「都庁は伏魔殿」と発言したからだったのです。

伏魔殿という言葉を聞いて思い出すのは、田中真紀子さんです。2001年の外相時代、外務省官僚との衝突のさなか「外務省は伏魔殿のようなところ」と発言しました。その時ほど石原さんの発言が話題になっていないのは不思議ですが、政治家(石原さんは元政治家というべきかもしれませんが)が、自分のコントロールできない事務方を評するのに使った点で共通します。そして今回の場合は、知られざる地下空間という舞台がいかにも「伏魔」という字にぴったりです。

伏魔殿という言葉は「水滸伝」に出てきます。東京(とうけい)の司令官が「伏魔之殿」という額のかかった建物の封印を、周りが止めるのも聞かず解き、石板の下を掘らせると「万丈深浅の地穴なり」。そこから108の魔王が飛び出していったのです。日本の東京都の場合、豊洲市場の地下にはベンゼンという「伏魔」があることを職員はどう考えていたのでしょう。
さて正解率を見ると「伏魔殿」がこの週で最も高いのですが、82%という微妙な数字です。アクセス数もこの5語の中で最も多く、たぶん「ふくまでん」が正解と思いつつ念のため確認しようという参加者が多かったのかもしれません。


正解
普請ふしん 80%
ふせい 15%
ふしょう 6%
「普請」の請をシンと読むのは鎌倉時代ごろからみられる「唐音」という読みで、普請はもと禅宗の用語ですので、鎌倉時代が生んだ読み方と言えるでしょう。


正解
うだつ 70%
もぬけ 25%
ぜい 5%
「梲」は相当な難読語と思っていましたが、正解率7割というのは大したものです。「うだつの上がらない」という慣用句の語源は建築用語だということは案外知られているのでしょうか。


正解
三和土たたき 79%
せめんと 14%
さわど 7%
「三和土」に関して、最近「万里の長城」の補修がコンクリートで固めただけで景観を台無しにしたというニュースがありましたが、いやあれはコンクリートではなく伝統的な三和土であり雑な工事ではないという趣旨の反論があり、ネットで話題になっています。豊洲市場に関しても、決定過程はともかく地下に空洞があることそのものは当然とする意見もあります。どうも土木の話は専門的で分からないことが多すぎます。


正解
一簣いっき 27%
いっせき 37%
いっす 36%
「一簣」は「九仞(きゅうじん)の功を一簣に虧(か)く」ということわざが、盛り土を欠いたため移転が成就しない市場を連想させたことからの出題ですが、この週で最も正解率が低くなりました。簣というのは日本では「もっこ」のことですが、もっこという言葉も今ではほとんど使われません。しかしこの古風なことわざは今も好む人がいます。出典は「書経」で、「楽しく使える故事熟語」(文春文庫)から引用すると、
周の文王の子である召公が、周王朝を創設した兄の武王に「朝夕の努力を続け、ささいなことでも慎まないと、大きな徳を損なうことになる。九仞の山を造るのに、あと一簣のところでやめれば、山は完成しない」と諌(いさ)めた。
とのこと。このように上司をいさめる部下がいると、豊洲市場もこんなに大問題にならなかったかもしれませんね。

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