前週の漢字クイズで最も難問だった「沖しきが若く」(正解率33%)は、生誕300年でブームの伊藤若冲にちなんだ問題。冲は沖の異体字ですから「若沖」と書いてもよいというか、むしろその方が新聞の字体原則にのっとっているはずですが……
〈読めますか?〉結果
秋田・男鹿半島と八郎潟

この週のテーマは「都道府県名の一部を使う言葉」。きっかけになったのは5月18日朝刊の次の記事です。

次期指導要領案:全都道府県名、漢字で 小学校国語に20字追加

これらの字はあくまでも都道府県名のために学ぶのであって、その他の一般語に及ぼす意図は感じられませんが、ふだん固有名詞でしか見ない字にどんな別の読みがあるのかを知るきっかけになるかもしれません。


正解
市井しせい 89%
しい 10%
ししょう 2%
まず「井」の字。小学校では教わらなかったのも意外でしたが、中学生の漢字の割り当てをみてさらに、セイの音読みも中学では学ばなくてもよいとされていることを知りました。義務教育では「井戸」の「い」の訓と、「天井」のジョウの音読みさえ教えればよいというわけです。そういえば、常用漢字表にセイは掲げられてはいますが、「市井」「油井」なんて特定分野以外の人は知らなくても日常生活に困ることはないかもしれません。しかしさすがに、この週の漢字クイズでは最も正解率が高くなりました。なお、語源としては「昔、井戸のある所に人が集まったことから」に限らず「市街では道が井の字の形をしているから」という説もあります。


正解
崎陽きよう 86%
さきひ 8%
さきよう 6%
「崎陽」が読める人が多いのは、シューマイで名高い「崎陽軒」の本拠である横浜市に集中している、とは限りません。86%の正解率からは、地域性を超えたものを感じます。ところで長崎に来ることを漢字2文字で表すとすれば「来崎(らいき)」というそうです。「来長」だと長野に来ることみたいだからかと思いましたが、「崎陽」という熟語が先にあったからという可能性の方がありそうという気がしてきました。


正解
沖しきが若くむなしきがごとく 33%
おおしきがごとく 34%
はなはだしきがごとく 33%
今回最も難問だった「沖しきが若く」は、生誕300年でブームの伊藤若冲にちなんだ問題。冲は沖の異体字ですから「若沖」と書いてもよいというか、むしろ「若沖」の方が新聞の字体原則にのっとっているはず。ですが、「沖」と「冲」が実質的に同じ字ということがどれだけ知られているか分からないため、暗黙の了解のもとに「若冲」と書いています。

それはともかく、若冲の名の由来として「大盈(たいえい=充満したもの)は沖しきが若く」と書いたところ、「今のいろいろな発展はむなしいという思いが強くなる」というツイートをいただきました。もともと老子の文の紹介が一部だけだったためそういう反応が出るのも無理ありませんが、おそらく老子がいいたかったのはそういうことではないでしょう。もう少し前後を記します。
大成は欠くるが若(ごと)く、其の用は弊(すた)れず
(ほんとうに完全なものは欠けたところがあるかのようであって、そのはたらきはいつまでも衰えることがない)

大盈は沖しきが若く、その用は窮まらず
(ほんとうに充満したものはからっぽであるかのようであって、そのはたらきはいつまでも尽きることがない)
金谷治「老子」講談社学術文庫
「むなしい」と読む部分が「からっぽ」と訳されています。「沖」の字のイメージとは違いますね。海のことで「沖」を用いるのは日本語独自の用法で「海洋国家日本らしい一種の誤解」(「円満字二郎「漢字ときあかし辞典」)。老子の用いる「沖」は本来「盅(中の下に皿)」の字で、「からっぽ」を表すとのことです。その解釈で先の一文を読むと、「むなしい」という無常観とはまるで違ってきます。ただ、「発展はむなしい」という感想もいかにも「諸行無常」の平家物語的日本的精神を表すもので、面白いと思います。

正解
潟湖せきこ 43%
がたこ 32%
しゃこ 25%
「潟湖」は主な辞書では見出し語で載せないか、「空見出し」にして「潟(かた)」に誘導しています。しかし新聞ではけっこう使われています。最近、あるコラムに「潟湖(かたこ)」とルビが付いたものがあって、大辞林などの辞書が空見出しにしていることから、はて単なる「潟」に直したほうがいいのかなあと思ったことがありました。しかし意外に、高校生からを対象にした小型辞典「角川必携国語辞典」に「せきこ」の見出し語で載っていたので、自信を持ってルビを直すことができました。やはり辞書はいろいろ調べるべきですね。

正解
熊掌ゆうしょう 36%
くまで 53%
のうしょう 11%
「熊掌」の熊の音読みが難問でした。音読み熟語としてはほかに「熊胆(ゆうたん)」というのがありますがいずれもあまり一般的ではないと思います。しかし熊本では知られている音読みなのでしょうか。今年4月「漱石来熊120周年」というイベントがあったのですが、ルビがないと普通「らいくま」と読むのではないでしょうか。おそらく公式には「らいゆう」が正しいのでしょう。しかし「らいくま」と読むのは間違いかといわれると、そもそも「来熊」という言葉は辞書にないという意味では正解の読みがない言葉ですから、「らいくま」と言ったっていいんじゃないかという気がします。
最近の「読めますか?」


校閲グループのお薦め本
「毎日ことば」のアカウント 
「毎日ことば」トップページへ
最近の記事
 
Top