前回に続き、校閲にとって無視できない部分を紹介しながら、連想の働くままこの仕事に関連する本を選び紹介する試み。今回は後編です。

前編から続く)

校正のレッスン―活字との対話のために

この本の巻末の「校正の知恵袋」に【大きな文字は要注意】という小見出しを立て

タイトルや見出しなど、大きな文字は意外に見落とす。

デザイン化されていたり、まさかまちがえているはずはないという先入観から、思いがけない誤字などがスルーされてしまうリスクが高い。

とあります。その他

【目だけで文字を追わない】目だけで見ていくと、流して読んでしまう。一文字一文字、ていねいに。

など、この「校正の知恵袋」の7ページだけでも重要な教訓が詰まっています。


著者は「外部校正者」ということですが、フリーの校閲者が主人公の小説といえば―― 

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

美しい小説ですが、恋愛小説なので校閲に関する部分がメインではありません。ただ、主人公が自分が担当した本を書店で手に取った瞬間、誤植を発見するシーンなどはひりひりと身につまされます。

「いくら誤植のない本は存在しないと言われたって、完成された本に誤植をみつけることほど校閲者にとってショックで残念なことはないわね」

というせりふもあります。


誤植についてのアンソロジーが――

増補版 誤植読本 (ちくま文庫)

仮に「史上最高の誤植」というのを選ぶとすると、つげ義春「ねじ式」冒頭の「まさかこんな所にメメクラゲがいるとは」という独白と思います。「メメクラゲ」は「××クラゲ」の誤植だそうですが、現実では聞いたこともない「メメクラゲ」という言葉が絵による説明もなく現れるという夢幻的効果は「××クラゲ」の比ではありません。その誤植を紹介する「錯覚イケナイ。ヨク見ルヨロシ」をはじめ、さまざまな作家、文筆家などによる誤植のオンパレード。

その中で、渋澤龍彦も岩波書店で社外の校正係をやっていたことを知りました。赤川次郎さんもそうですし、著名になる前の作家が校正で日銭を稼いでいたという例は少なくないのかもしれません。忘れてはならないのが石川啄木。東京朝日新聞社で校正をしていたのは有名な話です。


そして今。毎日新聞大阪本社の校閲記者が出した歌集が―― 

galley (塔21世紀叢書)

ゲラは英語ではgalleyということに澤村さんは注目しタイトルにしました。「木の箱に並ぶ活字と、ガレー船で櫂(かい)を握る人々の姿は、どこか似ている」と「あとがき」に記しています。校閲の仕事そのものを詠んだものはさほど多くはないのですが、3首紹介しましょう。

なにくはぬ顔せる文字をいぢめぬき廃せり赤きこのペンのさき
われもいつか骨と呼ばれむひしひしと字を読み続けし眼も失ひて
われはすなほに力を欲す誤りをつひに直さざりし記者を前に

最後の歌、あえて字余りにしているところに激しい感情がうかがえます。「うんうん」とうなずく経験者は多いのではないでしょうか。


最後もいささか手前みそですが、大阪毎日新聞社の表記マニュアルを紹介しているのが――

文章読本 (中公文庫)

日本語は送り仮名、振り仮名、漢字のあて方、句読点など、さまざまな選択肢があるということの実例の後、こういう文章が続きます。

大阪毎日新聞社では、自分の社の新聞に用いる宛て字や仮名使いの法則を定め、スタイル・ブックと題する小冊子を編んで、社員や関係者に配ったことがありましたが、あれはなかなか実際的で、穏当な意見であったと思いますから、あれを入手される御便宜がありましたら、御参考までに御覧になることをおすすめいたします。

1933年発行の大阪毎日新聞「スタイル・ブック」

この小冊子こそ「毎日新聞用語集」(くわしくはこちら)の前身です。ちなみに、いま毎日新聞用語集2013年版は電子書籍として発売中で、紙の本としてはオンデマンドで受け付けています。

毎日新聞用語集 毎日ebooks

長くなりましたが、校閲・校正に関係する本はもちろん以上だけではありません。お薦めの本がありましたらお知らせください。
【岩佐義樹】

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