フィギュアスケートは、10月23日開幕のグランプリシリーズ「スケートアメリカ」を皮切りに本格的なシーズンに入る。昨季世界選手権銀の宮原知子(さとこ)、2018年平昌五輪後のプロ転向を表明した羽生結弦(ゆづる)に加え、2季ぶりに復帰する浅田真央らの活躍に注目したい。

浅田は今季のフリーのプログラムに、プッチーニ作曲のオペラ「蝶々夫人」を予定している。渡部絵美さん、安藤美姫さん、太田由希奈さん、荒川静香さんらかつて世界で大活躍した日本人選手も滑ったプログラムをどのように演じるか、非常に楽しみだ。

2014年世界選手権の観客記念撮影用・実物大「キス・アンド・クライ」(フィギュアスケートで、競技終了後に選手と監督が採点発表を待つための、リンク脇のスペース。発表を聞いて喜びのキスを交わしたり、悔し泣きをしたりする場所の意。=大辞泉より)。筆者撮影

今回は、フィギュアのトリビアを毎日小学生新聞に掲載された疑問と併せて紹介したい。

毎日小学生新聞には「疑問氷解」という、読者の素朴な疑問に記者が分かりやすく答えるコラムがある。なるほど!と思うコラムは、毎日新聞本紙にも転載されることがあるのだが、あるフィギュアスケートの疑問が本紙でも取り上げられることになった。

「フィギュアスケートで(中略)男子と女子の最高得点が全然ちがうのは、なぜですか」


総合得点の歴代最高は、男子が295.27点、女子は228.56点で、70点近い差があるが、男女の体格差を考えると「何となく」原因は想像できる。このコラムでの回答の要旨はこうだ。

①男子と女子で(筋力や体力差などにより)できる技の難易度に差があり、高難度の技をすれば高い得点が加算される。
②男女とも、ショートプログラム(SP)、フリーと2回の演技の合計点で競うが、フリーの演技に入れることができる技の回数は、男子のほうが一つ多い。

具体的に言うと、男子の中には4回転ジャンプをSPで2回、フリーで3回入れる選手もいるのに、女子は4回転どころか、3回転ジャンプ類で最も難しいトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳べる選手すら少ない。浅田や、15年世界選手権(上海)優勝のエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)らごく一部である。その上、男子は女子よりも1回多くジャンプを演技に組み込むことができるのだから点差が開くのは当然だ。

2014年世界選手権で=筆者撮影

小学生新聞の回答は正解だが、フィギュアオタクの筆者には物足りない。さらに突っ込んだ回答を付け加えたいと思う。


フィギュアスケートの男女では、技の難易度や回数に関係なく「一律に」得点差をつけられてしまうルールがある。フィギュアは、技の難易度を示す「技術点」と、表現力などを示す5項目の「プログラム構成点」の合計点で競う。

技術点は、技の難易度で得点を積み重ねていくことができるので、(現状では漫画の世界でしかありえないのだが)5回転、6回転――と難しいジャンプに成功すればするほど、得点は青天井だ。

一方プログラム構成点は、「曲の解釈」や「振り付け」などの5項目をそれぞれ10点満点の範囲内で採点し、どんなに良いプログラムでも上限は50点。簡単に説明すると、技術点は絶対評価で、プログラム構成点は相対評価に近い。


ここでプログラム構成点に注目したい。実は男女、SP・フリーの得点にはそれぞれ一定の数値が掛けられている。例えば、男子のSPは5項目×10点の50点満点そのままだが、女子のSPは50点に0.8を掛け、40点満点になる。フリーでは、男子が2倍の100点満点、女子が1.6倍の80点満点だ。これは、総合得点を算出するときに、技術点とプログラム構成点が同じくらいになるように調整されたためとも言われている。


例えば、ソチ五輪男子金の羽生(上)と、同女子金のアデリナ・ソトニコワ(ロシア、下)のフリーのプログラム構成点を比較すると、羽生は45.49点×2=90.98点▽ソトニコワは46.50点×1.6=74.41点だった。


つまり、ソトニコワの方が掛け算をする前は点数が高いにもかかわらず、自動的に約15点もの差がついてしまった。SPの得点も加えると、その差はもっと広がってしまう。従って、小学生新聞での①、②の説明に加えて、この男女のプログラム構成点の乗率の違いによる得点差も理解していただければ、フィギュアスケートの男女の得点差がなぜ大きくなるのかがより深く分かると思う。


ちなみに、編集担当者に以上の説明をし、毎日新聞本紙用には補足説明を加えてはどうかと提案したら、別のコラムに差し替えることになった。うんちくおばさんが重箱の隅をつつくような説明を長々としていたら、うっとうしがられたようだ……。
【大野境子】

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