3月26日に行われた毎日メディアカフェ・記者報告会「校閲記者の仕事」の内容を3回に分けてご紹介します。

講演者は平山泉(ひらやま・いずみ)。1992年に校閲記者として入社、東京本社・校閲に配属されて以来、2006年から2年間の大阪本社を含め一貫して校閲の仕事をしています。

仕事の流れ

毎日新聞の校閲体制から説明します。原稿の流れは次のようになっています。

①取材した記者が書く→②デスクに送る→③デスクが載せる予定の面を指定して出す→④校閲→⑤東京・大阪・西部各本社の整理(編集部門)やニュースサイトへ

以前は整理→校閲でしたが、現在の毎日新聞ではまず校閲で一通り直してから送り出すようになっています。

校閲は原則1ページに面担1人で、デスクとキャップの計3人の目を通るようにしています。一つ一つの原稿を面担が読み、デスクかキャップが読む。ここで、調べものをしたり疑問を解決させたりし、直して原稿を送ります。

原稿もそろってきて、整理が紙面に組み上げる過程で、見出しや写真、表も入れ、原稿が長ければ削ります。組み上げ中の試し刷りでは、整合性をチェックしたり、削りミスに注意したりするほか、原稿を読み直すとまた誤りが見つかることもあります。

締め切り時間が来て、たいていはばたばたと降版します。「降りる」とも呼びますが、この状態で印刷に回るということです。

何を見つけて直すのか

①誤字脱字や変換ミス

誤字脱字は、活字を拾っていた時代よりは減っているはずですがなくなりません……。外電クレジットが必ず「ワシンントン」で書いてくる記者がいました。

また、「警視庁世田谷署」などで地名に気をとられていると「署」でなく「暑」になっていることを見逃すことも。まるで活字時代の誤植のようですが、よくあります。

②用字用語の決まりごと

署名記事が多いですが、紙面の表記としてはあたかも一人の人が書いているかのようにしなければ読みにくいので、表記のルールを「毎日新聞用語集」で定めています。難しい漢字を使わないようにできるだけ易しい言葉を使う、仮名遣いも現代仮名遣いなどなど、こういった決まりごとをうるさく言うことも校閲の仕事です。

仮名遣いについては、忘れられない出来事があります。入社して校閲の部屋に初めて行った日、壁に新人の名を書いて張ってありました。「平山泉」と漢字に読み仮名。これを見て「間違っています」と先輩方を前に言ってしまいました。「いずみ」でなく「いづみ」だと。ところが、「それは校閲的に許されない」と諭されました。あくまで「読み方」なので現代仮名遣いを使うのが原則で、常用漢字表にある読みも「いずみ」なのだからと説明されました。子供のころから仮名では「いづみ」と書いてきたため、ショックでしたが、普段決まりごとに従わせる立場でもあり、今回のメディアカフェで、プロフィル欄に「いずみ」と書かれることを泣く泣く受け入れました。

同音異義語の書き分けもあります。出稿元によく聞かれるのは例えば「態勢」と「体制」。民主党代表選のときに、よく「挙党たいせい」と言うが、それはどちらを使えばいいかと聞かれました。「もし党内人事などで恒常的なシステムづくりを党を挙げてしようということなら『体制』という考え方もできる」と言うと「いやそんなことはない。今だけのものだ。だったら態勢だね」となりました。

「毎日新聞用語集」には、「誤りやすい慣用語句」の項目があります。例えば、2002年版の用語集まで「二足のわらじ」を載せて注意を喚起していました。もとは「ばくちうちが十手をあずかる」ような相いれない二つを兼ねることで悪いたとえなのですが、もう今はほとんどの場合よくやっているという褒め言葉になります。トップアスリートでありながら会社員として勤めているといったような感じですね。これは、意味が変わったというより、使い方が広がってきたと考えて、今は許容するようになっています。

一方で、変わっていくことは認めつつも、新聞としては認められない言葉もあります。例えば「募金」。街頭で箱を持って「募金お願いします」と言っていたり、そこへお金を入れに来た人が「募金してきた」と言ったりします。しかし、文字では「募る金」であり、お金を集めることです。意味が逆の、お金を出す側に使うのは本来おかしいということになります。このことは日本新聞協会の用語懇談会でも話題になりましたが、参加しているテレビ関係の人たちは寄付する意味で使ってもいいではないか、現に言っているものを字幕で変えることはしないと言います。テレビは映像で補えるかもしれませんが、新聞は、基本的に文字でお知らせしなければならないので、両方の意味をとるのはやはり認めがたいのです。

言葉の意味は変化が定着していくものもあるので、それを「誤り」と決めることは難しく、迷うことも多いのですが、言葉について迷ったりしたくてこの仕事を選んだというところもあります。

③事実関係の誤り

有名人の名前は覚えていますが、それでも改名することもあるので要注意です。2002年に夕刊の早版で、ある外部ライターのコラムが見出しともども「葉月里緒奈」になっていて慌てて最終版で「葉月里緒菜」に直してもらったことがあります。しかしその2年後、同じライターが同じ欄に「自慢ではないですが2年前に葉月里緒菜を書き間違え、おわび記事を出したことがあります。そしたら先日、彼女は『葉月里緒奈』に改名……。名付け親になったような気がして、ちょっとうれしかったです」と書いており、こちらはちょっと複雑な心境になりました。

身近な数字である日付や年も気をつけなければなりません。クローン羊のドリーは、クローン技術の関係ではよく登場しますが、1998年7月のこと、日本でクローン牛が誕生したという記事の中の「昨年生まれたクローン羊ドリーの技術を応用し」というくだりを調べようと縮刷版で探しました。97年2月24日の「クローン羊誕生に成功」という記事を見つけ、確認できたと安心していたのですが、最終版になって「一昨年生まれた」と直され、早版は訂正。「まさか」と改めてその97年2月の記事を見ると確かに「いつ生まれた」とは書いていませんでした。写真もありましたが、確かに生まれたてには見えません。よくよく調べると「96年7月に誕生した」と書いてある記事も見つかりました。当時はデータベースやネットで調べるということがしづらいころではあったのですが、要は調べ方が甘かったということで、悔しさと共に忘れられない経験になっています。

一方で、調べに調べていたらほんとに誤りが見つかった経験もありますし、調べたりした努力が、その日ではなく、また別の日に報われることもあります。やはり、徹底して調べること、それがこの仕事の肝だと私は思っています。
②へ続く

当日のライブ配信動画(約100分)

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