漢字クイズ(テーマ・畳語)結果

回答割合は次の通り(出題日は4月13~17日、★が正解)。

茫々びょうびょう 19%ぼうぼう ★70%もうもう 10%
杳々きょうきょう23%こうこう10%ようよう★67%
軽々にかるがるに15%きんきんに11%けいけいに★74%
赫々かっかく★45%しゃくしゃく47%せきせき9%
蕭々しゅうしゅう11%しゅくしゅく45%しょうしょう★44%
この週は「畳語」。これらの語は普通後の方は「々」と表記します。しかし辞書では「々」は用いず「茫茫」などと文字通り重ねるのが多いようです。「々」は漢字ではなく記号だからでしょうか。

このテーマにしたのは、菅義偉官房長官と翁長雄志沖縄県知事の会談で「粛々」が話題になったことがきっかけです。「粛々」では簡単すぎると思い、フェイントのつもりで「蕭々」で出題しました。そのせいか「しゅくしゅく」を選んだ人が多く、今回最も正解率が低くなりました。ちなみに毎日新聞でもかつて、ある俳句で「蕭」を「粛」と書き違ったものを危うく載せかかったことがありました。

それはともかく「上から目線」という批判を受け、官房長官や首相は「粛々」の語を自粛することを表明しました。もちろん言葉を言い換えれば済むという問題ではありません。しかし、仲間内で当たり前に通用している言葉が外に向けて使われるとどういう印象を与えるかという実例を提供してもらいました。

「軽々に」は今回最も正解率が高くなったとはいえ、4人に1人が読めていないわけですから、ある立場や仕事のみでしか通用しない言葉かもしれません。一般には「軽々」といえば「かるがる」ですよね。「と」が付くと「かるがると」で、「に」に続くと「けいけいに」と読むのだと説明しても、素朴に「なぜ?」と聞かれると説明に窮するのではないでしょうか。音読みの方が重々しいからだといっても、それで一般的な使用と離れてしまっては言葉のコミュニケーションとしての機能が失われてしまいます。

「赫々」の出題時、第二次世界大戦時に「赫々たる戦果」などの文言で新聞は虚報を続けたと書きました。新聞社の末席として「反省」を述べたつもりですが、和語よりは漢語を使いたがる風潮は今もあるのではないでしょうか。たとえば選挙の日に「選挙とは関係ない面の担当は粛々と」という意味の上司の訓示を聞いたことがあります。「周りに惑わされることなく平常心で仕事せよ」といえば済むのに、政府・官界の「粛々」使用に影響されているのかもしれません。なお夏目漱石の「野分」に「秋の日は赫(かっ)として」という用例があります。これは漢語を用いつつ「あかあか」という和語をも意識させ、漢字の「重力」から自由になった日本語の柔軟さを表す例といえるのではないでしょうか。

「茫々」に関しては、最近の毎日新聞のコラムで「往時茫々」の表記が問題になりました。よく使われる語のような気がしますが、これを載せる国語辞典は、少なくとも四字熟語の形では見当たりません。探せた範囲では、三省堂国語辞典の「往事」の用例として「往事茫々」が載っている程度。「時」を用いた「往時茫々」は複数の四字熟語辞典にも見つかりませんでした。しかし、毎日新聞のデータベースでは無視できないほどの使用例があります。なぜこんなことに? この疑問の答えになるかどうか、広辞苑の「茫々」には「茫々たる往時」という用例があります。そして角川現代漢字語辞典では「往事茫々」と「茫々たる往時」をともに載せています。恐らく「おうじぼうぼう」は昔からある四字熟語ではないので、絶対に正しい表記として国語辞典には載せにくいのでしょう。だから揺れがあるのですが、白居易の詩を基にしたと思われる「往事渺茫(びょうぼう)」という四字熟語が昔からあるので、それのバリエーションとしては「往事茫々」の方がしっくりくる。しかし「茫々たる往時」となると元の四字熟語の「重力」から解き放たれ、「時」の側面が強調される「往時」が好まれる――ということではないでしょうか。

「杳々」はちくま学芸文庫「空海コレクション1」の冒頭に載っている詩を紹介したくて取り上げました。

悠悠たり悠悠たり太(はなは)だ悠悠たり
内外(ないげ)の縑緗(けんしょう) 千古の軸あり
杳杳たり杳杳たり 甚だ杳杳たり
道をいい道をいうに百種の道あり
(中略)
生まれ生まれ生まれ生まれて生(しょう)の始めに暗く
死に死に死に死んで死の終りに冥(くら)し

普通、畳語というのは1回繰り返すだけですが、この詩での繰り返しの迫力たるやいかがでしょう。空海の文章家としての天才が爆発していると思います。

今年は高野山開創1200年ということで、改めて弘法大師空海が注目されています。この漢字クイズでも折に触れて空海の言葉を紹介したいと思っています。
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