「絆を深める」とよく言いますが、語源的に間違いで、正しくは「絆を強める」だと聞きました。「絆」を心のつながりと解すれば、「深める」のほうがしっくりいくのですが、「絆を深める」はやはり間違いでしょうか。
――という質問をいただきました。


結論からいうと「絆を深める」は間違いではありません。「新明解国語辞典」で「絆」を引くと、「現代のペルー人とその祖先との絆を深める」「日欧間の絆〔=修好〕を深める」「平和への絆〔=連帯〕を強める」などの用例が載っています。「絆を深める」「絆を強める」ともに使えることが分かります。毎日新聞でも両方使われていますが、記事データベースでは「絆を深め」が「絆を強め」の約4倍という件数となっています。

「絆」の語源は「動物をつなぎとめる綱」(新明解国語辞典)とのこと。「綱」だから「深める」ではなく「強める」が正しいとする意見も、それなりに説得力があります。しかし、語源的というなら、「動物をつなぎとめる綱」は取りも直さず「自由を束縛するもの」です。

したがって、かつてはこんな使い方がありました。

「こうした関係から生じる煩悩が原因になり、恐ろしい報いを受けることになりますからな、長い絆が付きまとわることですからな、絶対によろしくないことじゃ」(与謝野晶子訳「源氏物語」夕霧)

「絆」に「長い」が付いていることも興味深いのですが、それよりも、明らかに否定的なニュアンスで使われていることにお気づきでしょう。「長い絆」は源氏物語の原文では「長きほだし」となっています。「ほだし」は「きずな」とは別の「絆」の読みです。今でも「情にほだされ」という形で残っていますね。人情に引きずられて本来やるべきことができないという意味で、薄まったとはいえ「束縛」のニュアンスは残っています。

「絆」とは本来、そのように人を縛り付けるものでした。それが今、親子や親友など、親しい人と人とのつながりの意味に転じました。東日本大震災以降は「絆」が大合唱され、2011年の「今年の漢字」にも選ばれたのは記憶に新しいことと思います。もはや「絆」の本来の意味はほぼ失われ、「結び付き」「一体感」と同義とみなしてよいでしょう。そうであるなら「綱」の原義を重視して「強める」に執着することもなかろうと思います。

「結び付き」をやはり「新明解国語辞典」で引くと「結び付きを深める(強める)」となっています。また、「一体感を強める」と「一体感を深める」の場合、同辞典には用例がありませんが、どちらも使うことは経験上分かっていると思います。ただし、多分に感覚的な違いですが、「強める」の方がやや押しつけがましいと感じる人もいるかもしれません。それと同様、「絆を強める」より「絆を深める」の方がどちらかというと好ましい表現として、今後も使われていくのではないでしょうか。


ただ、東日本大震災に関しては「絆」の使用は減っています。「震災」「絆」を共に使った毎日新聞記事の件数は2010年37件、11年1141件、12年1203件、13年604件、14年383件。震災により爆発的に増えた後は急減しています。これが記憶の風化や無関心を示すものとは限りませんが、今こそ、行動として「絆を深める」ことが求められているといえるでしょう。
【岩佐義樹】
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