時折、新聞紙面の片隅に載ってしまう「おわび」「訂正」。それらを撲滅すべく日夜業務に取り組んでいるのが校閲部です。とはいえ、人間の行う作業から完全にミスをなくすのが困難なのも事実で、仮に誤った内容のまま紙面化してしまった場合は、「なぜ見逃したのか」を検討して再発防止に努めることが重要です。
そうした趣旨で訂正記事をスクラップしていた古いノートが、このほど校閲部の部屋で見つかりました。20年以上前、まだワープロ原稿は一部で、紙面では原則的に漢数字を用いていた頃の物です。さて、この古いノートから、現代に通ずる教訓を見いだすことができるでしょうか。


1カ所だけ咲いた?桜

当時の「桜だより」は、南は鹿児島市から北は福島県郡山市まで、全国の桜の名所について載せていました。

問題の大宮公園(さいたま市大宮区)については、手書きの原稿には確かに「五分咲き」とあります。しかし比較的近い多摩湖(東京都)や長瀞(埼玉県)が「固い」だったので、校閲から注意喚起する余地はあったかもしれません。
表の項目に似たような文言や数値が並ぶことはよくありますが、その中で突出した数値や奇妙な文字列を見つけた場合、単なる違和感で終わらせず、裏を取るのは重要です。


10アールで200トン

見慣れない単位はイメージしづらいという典型的な例ですが、ひとつ冷静に考えてみましょう。10㌃=1000平方㍍=約1反(たん)、この広さで200㌧前後の落花生を収穫できるか?と整理した上で、例えばコメ1俵が60㌔、といったことを考え合わせると、やはり違和感を覚えるのではないでしょうか。
ちなみに、「1㌶=1万平方㍍=100㍍四方=約10反」となります。覚えておくと、いつかどこかで役に立つ、かも?


凶作、それとも超豊作?

記事全体としては、この年はコメの全国での10㌃当たり収量が397㌔、収穫量合計が850万㌧程度にとどまる凶作だったことに触れた上で、各地の10㌃当たり収量を挙げていくのですが、ここで単位の「㌔」と「万㌧」が入れ替わってしまいました。

数字を追いかけていくうちに単位を混同してしまうのは確かに時々あることですが、順を追っていくと、全国のコメ生産量が850万㌧なのに北海道・青森・岩手の3道県だけで630万㌧以上生産したことになってしまいます。米どころの新潟などが入らずに、そこまでの割合に達するとは考えにくい……と、もう少しだけ時間があれば防げたのかもしれません。


すごい天気

何と間違えたのかというと「簿曇」。しかもご丁寧なことに、全て「簿」になっていました。「一つだけ違う」場合はふと気づくこともあるのですが、こうなるとかなり厳しいかもしれません。当時は、形の似た字を間違えて拾う「誤植」がしばしば起こっていたが故の出来事です。
もっとも今日では、パソコン上で一括変換するのも簡単になりまして、誠にありがたい限り……と思いきや、10年ほど前でしたか、筆者は夕刊「世界の天気」で「リオデジャネイロ 蠅」を目撃したことがあります。ローマ字かな変換で「hare」と打ち込むべきところ、1文字飛ばしてしまったのでしょう。もちろん即座に直したのですが、「人間はミスを犯す生き物である」、そして「有り得なさそうなミスでも、起こる時には起こる」ということは、常に戒めとしておきたいものです。


存在しない日付

通す前に、カレンダーを一目見やる余裕が欲しかったところです。毎日新聞の本社を見学されたことのある方なら、編集局のそこかしこにカレンダーが張られているのを目にしたことだろうと思います。報道記事において「日付」というのは最も基本的な情報の一つだけに、ちょっとした確認で防げるように、という意味合いもあるのでしょう。

つい先日も、「11月31日」が紙面化してしまいました。「ゲラを確認する時は、真っ先に日付から」という先達の言葉が、改めて思い起こされます。


何かに気を取られると…

横に「別に”トップレス”に目を奪われたのでなく、地紋のせいで(?)見のがしました」という反省の弁が書き添えてありました。「地紋」とは、新聞で見出しの背景に使う模様のことです。最近では使われることも少なくなりましたが、縮刷版などで昔の新聞をご覧いただければ、同心円や波形などさまざまなパターンがあって面白いですよ。

いずれにせよ、「何か一つに気をひかれてしまうと、他の場所への注意がおろそかになりがち」というのは、よくある心理の落とし穴。ことに校閲にとっては、永遠に付きまとうテーマですね。
【百田知弘】

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