昨年11月、「和紙 日本の和紙技術」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録され、ニュースになりました。「和紙」は、島根県、岐阜県、埼玉県の三つで構成されています。伝統の技術が今後、どのように受け継がれ、発展していくのかとても楽しみです。

無形文化遺産には、一昨年、「和食 日本人の伝統的な食文化」も登録され、これも話題になりました。登録後は、和食のシンポジウム開催、和食に合う日本酒やビールの海外進出、和食器の紹介、和食の日(11月24日、<いい日本食>の語呂合わせによる)の制定など、「和食」をめぐる文化や産業が活発化していることがたびたび記事になっています。

山崎一輝撮影
しかし、気になる記事も見かけます。例えば「和食が世界遺産になり」というような文言。和食はユネスコの「無形文化遺産」であって、「世界遺産」ではないのでは? 定義を確認してみたいと思います。

無形文化遺産

無形文化遺産の保護に関する条約(2003年採択、06年発効)に基づき、登録、保護される各国の芸能や祭礼、伝統工芸技術など。

世界遺産

世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(1972年採択、75年発効)に基づき、普遍的な価値のある人類全体の財産として登録、保護される有形遺産。文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種がある。

どちらもユネスコの活動の一環です。日本の無形文化遺産としては、和紙、和食のほかに「能楽」「人形浄瑠璃」「歌舞伎」など計22件が登録されています。日本の世界遺産としては「富岡製糸場と絹産業遺産群」「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」など14件の文化遺産と「小笠原諸島」「知床」など4件の自然遺産があります。複合遺産には、文化遺産と自然遺産の両方の価値を備えているもの(例:ペルーの「マチュ・ピチュの歴史保護区」、トルコの「ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群」など)が選ばれていますが、日本ではまだ登録がありません。

こうしてみると、無形文化遺産と世界遺産では、登録の根拠となる条約が異なります。よって、「和食が世界遺産に」というのは誤りで、正確には「和食が無形文化遺産に」とすべきでしょう。

ところが、実際には無形文化遺産も世界遺産もひっくるめて「世界遺産」として理解しているように見える例がよくあります。例えば、NHKで「シリーズ世界遺産100」という短編ドキュメンタリー番組がありますが、この番組では「世界遺産」も「無形文化遺産」も紹介しています。対して、TBSの「THE 世界遺産」では、定義通りの「世界遺産」のみを扱っています。

和食の無形文化遺産登録に向けて活動した農林水産省も、登録以前は「日本食文化の世界無形文化遺産登録に向けた検討会」を設けていました。毎日新聞の過去の記事にも、無形文化遺産のことを「世界無形文化遺産」としているものがいくつかあります。確かに、無形文化遺産も「世界の遺産」ですから致命的な間違いではないかもしれません。「世界」がつくと、世界の遺産であることが端的に示されるような感じもします。が、原語はIntangible Cultural Heritageですから本当は「世界」は要りません。ちなみに「世界遺産」の原語はWorld Heritageですから、適切な訳語といえます。

新聞では「無形文化遺産」「世界遺産」は正確に区別して使うべきですし、「世界無形文化遺産」のような俗称も、誤解を招きやすいので使わない方がよいように思います。社会一般に、それぞれの定義がきちんと伝わるよう気をつけたいと思います。
【沢村斉美】

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