第47回衆院選は与党が安定多数を維持し、引き続き政権を担うことになりました。重要な政策課題が山積するなかです。選挙がブレーキにならず、課題解決の一層の推進力となるよう祈りたいと思います。


山積する課題の大きなもののうちの一つが東日本大震災からの復興ですが、復興関連の記事で「工程表」という言葉を見かけられたことがあるのではないでしょうか。おおむねの予定表、計画表のような意味で使われています。たとえば復興庁のホームページ(写真)を見ますと「各府省の事業計画と工程表」という項目があり、「公共インフラに係る復興施策(事業計画と工程表)」「避難指示解除準備区域等における公共インフラ復旧の工程表」など、たくさんの「工程表」が出てきます。これらはある種、固有名詞として扱いますので、「工程表」のまま紙面に登場していると思います。

一方、国際面でよく目にされるかと思いますが「行程表」というのも出てきます。こちらも予定表、計画表のような意味で使われており、「工程表」と差がないようにも思えます。ただ、こちらは「ロードマップ(行程表)」という書き方で登場することが多く、外来語由来のようにも見えます。さて、「工程表」と「行程表」は同じなのでしょうか、それとも違いがあるのでしょうか。

辞書を見てみましょう。「こうてい」の項目だけの辞書が多いのですが、「こうていひょう」で項目を立てている辞書もあります。まず「工程」で代表的なものを引いてみます。

◆三省堂国語辞典(第7版)「[工程](名)①〈仕事/工事〉のはかどりぐあい。②工事などを進めていく手順・段階」

◆明鏡国語辞典(第2版)「【工程】〔名〕作業を進めていく順序・過程。また、その進行の程度。『自動車の製造―』『―管理』」

◆広辞苑(第6版)「【工程】①作業の手順。またその進み具合。②生産過程を多くの段階に分けて分業を行う際の、それぞれの加工段階」

 といった具合です。次に「工程表」を見てみましょう。

◆三省堂国語辞典(第7版)「[工程表](名)仕事や工事を進める手順を定めた表。『作業の―』→:行程表」

◆広辞苑(第6版)「【工程表】一個の品物を加工して行く過程を示した表で、各工程においてどのような種類の処理を行うべきかを表示したもの」

◆日本国語大辞典(第2版)「【工程表】〔名〕作業の順序や日程などを示した表。[発音]コーテイ△ヒョー〈標ア〉0」

といったところで、「工程」の意味通り、仕事、工事、作業といったものの順序・進み方を示した表という意味です。

次に「行程」のほうは

◆三省堂国語辞典(第7版)「[行程](名)①みちのり。『三日の―』②旅行の日程。『東京、横浜を回る―』」

◆明鏡国語辞典(第2版)「【行程】①目的地までの道のり。②旅行などの日程。『無理のない―を組む』③ピストンなどの往復距離。ストローク」

◆岩波国語辞典(第7版)「【行程】①足や車で行く距離。みちのり。『一日の―』②旅行などの日程。③ピストンが端から端まで動く距離」

などという様子で、地点の移動の長さや順序、すなわち旅行などの日程や予定を表しています。また、内燃機関の作動距離も意味していますので、非常に動的なニュアンスを持っている言葉と言えるでしょう。

「行程表」を見てみますと、

◆三省堂国語辞典(第7版)「[行程表](名)いつまでに何をやる、という目標・方法を定めた表。ロードマップ。『民主化の―』→:工程表」

◆大辞泉(第2版)「【行程表】カウテウヘウ→ロードマップ②」

といったところで、「表」をつけて項目を立てている辞書は少なく、手元の辞書では上記二つしか見当たりませんでした。しかし、両方の辞書に同義語として挙げている「ロードマップ」はすでに外来語として日本語化し、たくさんの辞書の項目になっています。代表的なものを見てみますと、

◆広辞苑(第6版)「ロード【road】(中略)―マップ【~map】自動車を運転するための道路地図。ドライブ-マップ」

◆三省堂国語辞典(第7版)「ロード(名)〔road〕(中略)☆☆―マップ(名)〔road map〕①ドライブ用の道路地図。②事業などの目標・方法を定めた行程表。『民主化のための―』」

◆大辞泉(第2版)「ロード-マップ[road map]①自動車を運転する者のための道路地図。ドライブマップ。②ある作業をするときの手順表。行程表。「紛争解決の―を示す」③企業が将来発表する予定の製品を時間順に並べた図表」

◆岩波国語辞典(第7版)「ロード 道路。▽road(中略)―マップ ①道路地図。②行程表。進行計画案。『製品開発の―』▽road map」

などと、「行程表」はむしろこちらの方によく登場しています。「ロードマップ」はもともとドライブのための地図を指していたものが、手順や計画を示すものに意味が拡大したようですね。これらの辞書の記載の仕方を見ると、「行程表」は先程触れたように外来語の翻訳として造語されたようにも思えてきます。しかし、辞書の用例を見ると、そうではなさそうです。

◆新編大言海(新編版初版第2刷)「こうてい〔名〕【行程】旅行ノミチノリ。行程(ギョウテイ)。道程(ドウテイ)。(中略)主計寮式、上『大和国(行程一日)』」

◆日本国語大辞典(第2版)「こうてい カウ:【行程】〔名〕①目的地までの道の長さ。みちのり。また、比喩的に、ある目的に達するまでの過程。里程。道程。*続日本紀-養老二年(718)五月庚子『而其道経伊予国、行程迂遠、山谷険難』*吾妻鏡-寿永三年(1184)二月五日『源氏又陣于同山之東。隔三里行程、源平在東西』*海道記(1223頃)大岳より鈴鹿『万里の行程は半にも至らず』*西洋道中膝栗毛(1870-76)〈仮名垣魯文〉三・下『此あいだ五日の行程(カウテイ)』*楊万里-峡山寺竹枝詞『峡裏撑船更不行、櫂郎相語改行程』②旅行などの日程。*行人(1912-13)〈夏目漱石〉塵労・三〇『私は行程(カウテイ)を逆にして、まづ沼津から修善寺へ出て』*一兵卒の銃殺(1917)〈田山花袋〉一八『幸ひに女中はかれの明日の行程をきかなかった』③蒸気機関、内燃機関などのピストンが往復運動する距離。ストローク(以下と漢文の用例の返り点省略)」

「行程」は、平安時代中期にまとめられた格式(法律にあたる律令の施行細則)である延喜式(えんぎしき)の主計寮式にすでに登場しています。これらの用例を見ると、古くは旅の距離を意味していたものが、段々と広がっていったように見えます。さらに英語の「road map」が流入してきた際には、旅つながりでもあり、似たような比喩で訳語として適当だったのでしょう。すっかりロードマップとワンセットで定着が進んでいると言えると思います。

片や「工程」の用例を見ますと、

◆日本国語大辞典(第2版)「こうてい【工程】〔名〕作業の手順、手数(てかず)。作業の進行程度やそれに要する時間をもいう。プロセス。*女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉二・四『精紡より後の工程と職工の職業別は左の通りである』*夜明け前(1932-35)〈島崎藤村〉第一部・下・八・六『印刷、製本等の工程を終って』*鉛筆ぐらし(1951)〈扇谷正造〉見だしのモザイク『輪転機、発送、駅積みこみまでの工程は、文字通り、機械化されているから、一分の時間も、ごまかしが利かない』*元史-韓性伝『性所著有読書工程、国子監以頒示郡邑校官、為学者式』(以下と漢文の用例の返り点略)」

と大正の用例から始まっていて、やや新しい分、意味の拡大も広くないと言えるでしょう。

これらのことから、ニュアンスの違いをまとめてみましょう。

「工程表」は、やはり「作業」の予定であり、目標がはっきりしていて、そこまで確実にやり遂げるためのスケジュールというイメージです。まさに行政が行う仕事はこういう感じではないでしょうか。そして「行程表」は同じ予定表でも、ゴールも自分で設定でき、何通りもの行き方から行為者が選択する余地が広いイメージです。

復興庁に代表される行政は、復興のゴールを、街を元通りにするという確固とした目標に設定していかざるを得ないところがあるので、「工程」のイメージだったのだろうと思います。ただ、民間の企業や団体は、独自のイメージで、かつてとは違う街をつくろうと考えている人たちもいると思います。彼らの計画表は「行程表」になりそうな気がします。

同じ予定表、計画表の意味を持つ言葉で、どちらを使っても誤りではないですが、使い分けようとすると非常に難しいと思います。どういう使われ方をしていくか、しばらくは注意深く観察していきます。
【松居秀記】

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