漢字クイズ(テーマ・公)結果

12月1~5日の回答割合は次の通り(★が正解)。
公腹立つおおやけはらだつ★18%こうはらたつ45%こうふくたつ37%
公孫樹いちょう★62%けやき31%まごのて7%
公界きんかい24%くがい★57%こうかい19%
公魚このしろ28%さより18%わかさぎ★54%
狙公えてこう32%かっこう13%そこう★55%

この週は衆院選公示にちなみ「公」の字。だじゃれじゃありません。

今回の選挙は投票率の低下が予想されています。大野晋「日本語の年輪」(新潮文庫)によると「政治はおかみのすることで、戦争に巻き込まれそうでも、経済が破綻しそうでも、自分には関係ないと思い込んでいる人がいる。『おおやけ』の問題には一切関係しないという考えの人もある」。しかし、おおやけの語源は「大きい家」ということです。公のことと私のこととは、昔から不可分の関係にありました。

今回最も低い正解率となったのは「公腹立つ」。これは古語で、現在は死語ですから無理もありません。出題時に取り上げた枕草子だけではなく、紫式部の日記でも「おほやけばら」、源氏物語でも「おほやけはらだたし」は使われています。平安時代のキャリアウーマンにとって、おおやけの理不尽を私の憤りとして受け止める心性が「公腹立つ」という言葉になっていたのかもしれません。

「公孫樹」は今回最も高い正解率ですが、数字としてはやや低めなので、あまり使われない当て字といえるでしょう。しかし「銀杏」は俳句で好まれますが「ぎんなん」とも読めてしまううらみがあります。「鴨脚樹」は語源に近いとされますが、この字もあまり見かけないと思います。だから「公孫樹」の字は廃れません。でも「孫」は孫の代に実がなるという意味があるとして「公」は? おそらく「おおやけ」の意味はなく単に孫に対してのおじいさんの意味ではないかと推測します。

「公魚」は今の茨城県に当たる麻生藩が霞ケ浦産のワカサギを徳川将軍家に献上したことからの名とされます。将軍家は公儀とも公方(くぼう)ともいわれますのでその「公」と思われます。ちなみに公方はもと「おおやけ」の意味がありました。

「おおやけ」は「公権力」という言葉があるように政権と結びつきやすい概念のように思いますが、昔は必ずしもそうではなかったということを教えてくれるのが「公界」という歴史用語です。中世歴史家、網野善彦さんの著作によって知りました。「俗権力も介入できず、諸役は免許、自由な通行が保証され、私的隷属や貸借関係から自由、世俗の争い・戦争に関わりなく平和で、相互に平等な場、あるいは集団。まさしくこれは『理想郷』」(「無縁・公界・楽」)という世界が日本の中世にはあったといいます。つまりここでは「公」が「私」と対立する息苦しい空間ではなく、ましてや政治にからめとられた場でもなく、民衆による平和で自主独立の世界として成立していたのです。

しかし網野さんは手放しで評価しているわけではなく、「餓死・野たれ死にと、自由な境涯とは、背中合せ」でした。また、江戸期には「公界」は「苦界」に転化していきました。その厳しい現実は認めるとしても、乱世にこのような世界があったということは驚きです。

「狙公」の「狙」は実は、2010年にようやく常用漢字になりました。それまで新聞では使っていましたが、ようやく最近公的に認められたのです。しかし昔はこの字がサルを表したというのは、円満字二郎さんの「ひねくれ古典『列子』を読む」(新潮選書)で知りました。「朝三暮四」という言葉は猿を飼う「狙公」が猿の餌を「朝三つ、暮れ四つ」より「朝四つ、暮れ三つ」の方がいいとサルたちを丸め込む話として知られますが、円満字さんの解釈は少し違います。「狙公の考えは、実は、サルたちにはお見通しだったのではないでしょうか?」「狙公とサルたちは、そうやってだまし合いながら生きていく。それは、現実の世界でもおんなじです。政治家は庶民をうまくだましているつもりかもしれないけれど、本当は、庶民がだまされたふりをしてあげているだけなんですよ……」

今回の解散について、消費税増税は延期されただけで結局は実施されるので「朝三暮四解散」と名付けた向きもありました。この伝でいえば安倍晋三首相は国民をサル並みとみなしていることになります。しかし、大方の日本人は「しょうがないから、だまされたふりをしてあげるよ」と思っているかもしれません。

安倍さんの解散の「狙い」はともかく、それに乗るにせよ乗らないにせよ、選挙は国民の意思を示す絶好の機会です。きょうはその衆院選投票日。さて、だまされたふりをするのか、いまこそ公憤を示すのか、選択の時です。


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