サッカー・ワールドカップ(W杯)が開幕しました。ところで、サッカー好きの読者の中には、新聞を読んでいて選手の表記に違和感を持ったことがある方も多いのではないでしょうか。

ポルトガル代表FW「クリスティアノ・ロナルド」選手。今大会の注目選手の一人です。しかし、スポーツ雑誌でもテレビの実況でも出演CMの字幕でも、見る(聞く)のは「ロナ『ウ』ド」ばかり。それなのに毎日、朝日、読売、産経と一般全国紙はいずれも「ロナルド」(写真は毎日)。なぜ新聞はこう表記するのでしょう。

毎日新聞用語集では外国人名について「原則としてカタカナで現地の呼称に従って書く」とあるだけで、ポルトガル語の表記例は載っていません。ロナルド選手のアルファベット表記はRonaldoで、2002年W杯得点王のブラジルの「ロナウド」選手と全く同じ。ブラジルは同じポルトガル語圏だから、同様に「クリスティアノ・ロナウド」がよいのでは?

その疑問への説明になりそうな解説が、弥永史郎著「ポルトガル語発音ハンドブック」にありました。同書は音節の最後にある「l」の発音について「母音のuの音質」を帯びるとしています。実際に発音してみると、舌が上の歯茎にくっつくのですが、音としてはあまりはっきりせず、くぐもった「ル」になります。さらに「特にブラジルでは、舌先は上昇しても、歯茎に接して閉鎖を形成しないので、母音化」することもあると書かれています。Brasilであれば、最後の「l」が母音のようになり、「ブラジル」でなく「ブラジウ」と発音されるのです。「ロナルド」「ロナウド」の使い分けは、ポルトガルとブラジルでの音の差を踏まえたものだといえるのです。

では「クリスティアノ・ロナウド」と書いている媒体はその差に無頓着なのかというと、そうとは限らないでしょう。彼はサッカーファンの間では「ロナウド」としてあまりにも有名です。そして現地での発音は、日本語の「ル」にピタリと当てはまるほどはっきりしたものではありません。とすれば定着した「ロナウド」を使うことにも十分な根拠があります。

11日に選手名鑑を掲載したスポーツ紙を見比べてみると、面白い違いがありました=表。ポルトガル代表で同じ「l」の音を持つA.Almeida、H.Almeida、Alvesの各選手について、日刊スポーツは全て「ル」表記で統一し、スポーツ報知は逆に「ウ」表記で統一しています。スポーツニッポン、サンケイスポーツは各選手で書き分けています。
現地の発音に近づける、読者が親しんでいる表記にする、同じ発音は同じカタカナで表す。常に全てを満たすことは不可能です。時には優先順位をつけなくてはなりません。ロナルド選手の場合、サッカーに詳しくない読者も多い一般紙は現地の発音に近づけることを優先し、逆にある程度サッカーに親しんでいる読者層に向けた媒体は、慣例の表記として「ロナウド」を選ぶ傾向にあるのではないかと推測できるのです。

ポルトガルの初戦は日本時間17日午前1時から。相手は強豪ドイツで、1次リーグ屈指の好カード。実況が「クリスティアノ・ロナウド!」と叫ぶ場面がきっとあるでしょう。職業病のように「新聞ではロナルド」などとやぼったいことは考えず、世界トップクラスのストライカーの豪快なプレーを楽しもうと思います。
【林弦】
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