東日本大震災直後から今春までの3年間、東京で勤務し、生まれて初めて首都圏で暮らしました。東京メトロ(旧営団地下鉄)沿線に住んだので、地下鉄の路線についてはすぐ覚えましたが、JRの路線にはなかなか慣れることができませんでした。

たとえば、こんな原稿が手元に来て、「うーん」と考え込んでしまったのです。「東京都中野区のJR中央線東中野―中野駅間で、線路上にいた男性が津田沼発三鷹行き普通電車にはねられて死亡した。この事故で中央線と中央・総武線が約1時間半にわたって全線で運転を見合わせた」

中央線と中央・総武線はどういう関係なのか、そして中央線全線ということは名古屋まで止まってしまったのか――。私の知識では、JR中央線は東京と名古屋、総武線は東京と千葉県の銚子をそれぞれ結ぶ路線でした。同僚に尋ねてみると、中央線は東京駅から高尾駅(東京都八王子市)まで走るオレンジ色の快速電車、中央・総武線は千葉駅―三鷹駅間を結ぶ黄色の各駅停車ということでした。例外もあるようですが、首都圏1年生への説明としては十分でしょう。

実は「中央線と中央・総武線」というのは正式な路線名ではなく、「運転系統(運行系統)」のことなのです。運転系統という言葉は一般的にはあまり用いられませんが、東京都心を環状運転している「山手線」も実は運転系統のことです。JR東日本のリストでは路線としての山手線は「品川―田端(新宿経由)20.6キロ」、つまり環状運転の西半分のみで、田端―東京間は東北線、東京―品川間は東海道線です。しかし専用の線路を走っていることもあり、「山手線」といえば一周する路線と思うのが普通でしょう。

運転系統「中央線」はほとんどの区間が路線としての中央線を走っていますが、「中央・総武線」は御茶ノ水駅を境に西が中央線、東が総武線に分かれています。それでは、記事の冒頭に出てきた「JR中央線」はオレンジ色の電車の運転系統のことなのでしょうか。事故のあった線路を走っていたのは千葉県の津田沼駅発の普通電車ですから、こちらは路線の中央線のようです。このように一つの記事の中に出てくる同じ「中央線」の意味の違いが気になるようでは、「東京に慣れた」と言えないのかもしれません。

ところでJR東日本の路線リストには「京浜東北線」や「埼京線」は見当たりません。どちらも路線名ではなく運転系統名です。「京浜東北線」は東京駅を境に北が東北線、南が東海道線・根岸線。「埼京線」は山手線・赤羽線・東北線の支線を走り、一部の電車が川越線に乗り入れています。21世紀になって新設された運転系統「湘南新宿ライン」(東海道線・山手線・東北線など)は名称に「線」ではなく「ライン」を用いたので、路線名と勘違いされることは少ないでしょう。

東京勤務最終盤となった今春、ある県の地域面の試し刷りで、県内の観光協会が首都圏でキャンペーンをするという記事を読みました。まず目に入ったのが「新宿と大宮を結ぶJR埼京線」。「埼京線」は大崎駅(東京都品川区)から川越駅(埼玉県川越市)までの運転系統ですが、新宿―大宮はその中の主要区間であり、首都圏以外の読者にはこの方が分かりやすいだろうと思っていると、次に「沿線の川越駅でイベントを実施」。川越駅は新宿―大宮間の外にあります。結局、初めの箇所を「新宿と大宮などを結ぶ」と直しました。

4月から勤務している大阪も鉄道各社の路線が縦横に走っていますが、路線名と運転系統の関係で頭を悩ますことはないようです。複雑怪奇な首都圏の鉄道路線について、全国の読者に分かりやすく伝えることは難しいと改めて感じています。
【中高正博】

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