九州電力株主総会は今年、3時間49分の長丁場となった。昨年の過去最長4時間には及ばなかったものの、休憩も全くないため尻も頭も痛くなるばかり。福岡市のホテルの大広間に集まる688人のほとんどは会社側である。質疑応答も、答弁を煮えきらないと感じる質問者のイラ立ちをつのらせたようだ。総会も押し詰まった頃、議長の指名を得てマイクを握った男性が九電の姿勢について語る中で、こう声を高めた。

「コンプライアンスとは何でしょう。ホーレーソンシュですよ」

えっ? いま何と。

誰もヤジを飛ばさないし、会社側もさりげなく訂正してあげるふうもない。黙っておく大人の対応なのか。

彼は「法令遵守」を言いたいらしい。確かに「遵」を正しく読むのは難しい。常用漢字ではあるが、新聞協会では使用しないことになっており、同じ「したがう」の意味合いの「順」を代用し「法令順守」と表記している。手近な辞書では見つけられない「尊守」は、なるほどインターネット上では目にすることがある。崇高なものとして尊重し、守るという意味合いで意図して使ったのかもしれないが、「法令」とくれば「遵守(順守)」が一般的だろうし、コンプライアンスの和訳として彼が挙げていたことを考えれば、やはり誤読であろう。「尊」は「遵」の略字ではない。これは別字である。また、「コンプライアンス遵守」と重複表現を気にしない人をたまに見かけるが、訳してみれば「法令遵守遵守」となるおかしさに気づくだろう。

「そんしゅ」の誤読と似た例として「破綻」を思い出す。これを「はじょう」と発声してしまうのだ。以前は「破たん」と交ぜ書きだった。ところが、金融機関などの破綻をニュースとしてメディアが1990年代以降、盛んに取り上げたことで読者、視聴者に認知され、毎日新聞ではルビを振る「破綻(はたん)」の期間を一時挟み、現在は「破綻」と漢字のみの表記に変わった(他紙にはまだルビを振っているところもある)。

世に慣用読みとして誤読が定着した例は数多い。「独壇場」のように、本来正しい「独擅場(どくせんじょう)」がかすんでしまうほど圧倒的な市民権を得た言葉もある。「そんしゅ」も、「誤読」の注釈つきで辞書に収録される日が来ないとは限らない。
【林田英明】

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