テレビを見るとき、私は字幕機能を利用している。本来は聴覚に障害がある人や、耳の聞こえにくい人にも番組を楽しんでもらうための機能だ。なぜ日常的に利用しているかというと、実家に居た頃、大好きなテレビドラマの観賞と、途中に耳に入ってくる生活音や両親の会話などをうまく両立させるためにたどり着いた苦肉の策である。

さて、校閲の仕事を始めて約1年半がたち、自分の日常を振り返ってみると、日本語の番組を日本語の字幕を真剣に追いながら見ることは、実は校閲の仕事の訓練にもなっていることに気がついた。校閲の作業では、記事の内容や表記の正確さを追求しながら、しかも文章の流れはスムーズであるよう気を配る。しかもそれらは、ただ時間をかけてやればいいわけではなく、締め切り時間をにらみながらスピード感をもってやり遂げなければならない。めまぐるしく変わるテレビの字幕を追いながら同時にストーリーを楽しむという「音声字幕同時観賞」が、校閲の作業に通じているような気がしてならない。

TBS系で放送中の金曜ドラマ「クロコーチ」。3億円事件の謎を追う捜査2課のくせ者刑事、黒河内圭太(長瀬智也)が、一緒に組んで捜査する清家真代(剛力彩芽)が鋭い推理をした時に言う決まり文句は、字幕では「せいか~い」と表示される。黒河内のセリフを番組で実際に聞いてもらえば分かると思うが、この字幕の表記の仕方で「だいせいか~い」である。もし、例えば「正解!」というような字幕であったら、ニュアンスが全然違って、この決めぜりふを楽しみに見ているクロコーチファンはがっかりである。会話以外の部分でも、携帯電話のバイブレーションが鳴る時には「(バイブレーター着信)」、登場人物が泣いている時には「○○(人物)のすすり泣き」、驚いた時や言葉に詰まる時は「えッ?」「だ、大丈夫ですか?」など、カタカナや記号も駆使して細部にまでこだわって作られている。

字幕放送は字幕制作者が、完成した番組の映像を見ながら、会話・効果音を聞きとって丁寧にデータを作っているという。最後には校正者によるチェックも入るというから、校閲という仕事はどの世界においても最後のとりでだと痛感する。生放送の番組で字幕を同時入力している時は、どうしても間違いやすいのであろう。知らず知らずのうちに、字幕を校閲している自分に気づく。もはや私にとっては生活の一部になっている字幕付きテレビ観賞だが、校閲という仕事についたから両者の意外な関係に気づけたのだと思う。
【松本允】

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