「このまま政局になる」「政局とはしない方向」という言い方に、新米校閲記者は驚いた。政局とは「政治・政界のなりゆき・ようす」(角川新国語辞典・1981年)を表す語で、戦局、時局などと同様、これからどうなるかという情勢、形勢のことだと思っていた。「先の読めない政局になりそうだ」というならわかる。しかし、なんら修飾語が付かず「政局にする・なる」とはどういうことか。どのような文脈だったか、詳しくは覚えていないが、「『政局にするのではなく、国民生活を大事に考えた政治をやっていただきたい』と話した」のような使い方だったろうか。しかも「する」ではなく「政局にしない」と、多くは否定形を取ることが特徴である。政治家自身の発言の引用に限らず、記者の地の文にもたまに出てきた。

それから30年が過ぎた。大辞泉の第2版(2012年)には政局の意味に「②政党内・政党間の勢力争い。特に、与党内での主導権争い。多く、国会などでの論戦によらず、派閥や人脈を通じた多数派工作として行われる。『――になる』」が加わった。新明解国語辞典第7版(2012年)も、この語の「運用」の仕方として「政治家・報道関係者では『政局にする(なる)』の形で、『政争を引き起こす(が起こる)』の意に用いられ、首相交代や解散総選挙など、政界の勢力分野に影響を及ぼすような局面を言う」の一文を載せた。

「政局にする・なる」の用法では、新明解国語辞典のほうが大辞泉より「政局」を広く大きく捉えている印象があるが、おおかた、この二つの辞書の説明が新聞での使い方といっていいだろう。ただ新明解国語辞典で言う「『政争を引き起こす(が起こる)』意に用いられる」というのには、少々の違和を覚える。この語を口にした政治家の気持ちを推し量りながら記事を読むと、政争本体ではなく、それになるかもしれない混乱、政争につながる局面という意味で使っているようなケースもみられる。だから「政局にする」と言えば、これから大きな炎にするぞ、と火種に向かって息を吹く政治漫画にありそうな図柄を浮かべてしまう。もっとも、はっきり「政争」と言ってしまうと不穏当な発言と批判されそうだから……という気持ちも、政治家には働いているかもしれない。

さらには、公の場での主義・主張の侃々諤々(かんかんがくがく)より、往々にして国会外の駆け引きや腹の探り合い、夜の会合での多数派工作といった動きも目に付くのが「政局になった(した)」さいの景色である――とは、品性に欠ける物言いだろうか。
【軽部能彦】

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