東日本大震災から2年。毎日新聞では、息の長い震災報道に努めようと、3日から連日2面以上の特集面を展開しました。校閲担当者も、普段以上に言葉のニュアンスなどに注意してチェックを行いました。ご一読いただければ、とてもうれしく思います。

「普段以上に言葉のニュアンスなどに注意して」と申し上げました。私には、こういう場面でよく思い出す言葉があります。「〜周年」という言い方です。この言葉で読者の方から厳しい指摘を受けたことがあります。うろ覚えになってしまいましたが、およその経緯は以下のようなものでした。

阪神大震災からちょうど1年の紙面で、「1周年」と書いたものがありました。それを見たある読者の方から、「『〜周年』というと、まるで阪神大震災が良いことのように思えて、やりきれません」というご指摘をいただきました。当時、私の上司だった用語担当者にこの声が回付されてきて、何か対応を考えようと、辞書や資料をいろいろ調べておりました。その結果、辞書的には問題のある使い方ではないことが分かりました。たとえば
  • 「《数を表す語について》その数だけの年を経たこと」(岩波国語辞典)
  • 「[−周年]…回めのとし」(三省堂国語辞典)
  • 「まる…年」(広辞苑)
といった具合で、良い悪いというニュアンスが含まれるように書かれた説明は見つからず、単に経過した年数を表すだけのものばかりでした。しかし、ややひっかかることもありました。それは、辞書が引いている用例です。
  • 「創立三十−」(新明解国語辞典)
  • 「創立十−記念」(岩波国語辞典)
  • 「創立[結婚]三〇−記念」(明鏡国語辞典)
ほとんどの辞書が、学校・会社など組織の創立や結婚の経過年数を挙げていました。辞書の用例は言葉の使われる場面を網羅したものではないですが、代表的であることは間違いありません。確かに悪い場面では使わない「傾向」はあると言えました。

当時の私の上司は、「言葉狩り」の批判があることは承知で、「〜周年」は震災などの凶事にはなるべく使わないように、という呼びかけをしました。明文規定にするには根拠が弱いけれど、不愉快に感じる人はたくさんいると思われる、という説明を社内で繰り返し、私たちもそういうふうに聞かされ、今でもそう心がけて仕事をしています。今回の東日本大震災から2年が経過する場面でも、それは生きているはずです。

あれから、ずいぶん時は流れました。先日、この問題を再確認するために辞書を引いていたら、2011年4月刊の明鏡国語辞典第2版(大型版)の「周年」の項に「震災一〇−を迎える」との用例を見つけました。しかし、「多く、慶事の記念に言う」というはっきりした注釈もありました。依然として揺れてはいるものの、「〜周年は慶事」という語感の定着は進んでいるようです。これからも、語感を磨くことで、少しでも被災者の方々に違和感なく読んでいただけるような紙面を目指したいと思います。
【松居秀記】

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