1961年のミュージカル映画「ウエスト・サイド物語」。映画の内容はともかく、この邦題の表記に違和感があるという方はいるでしょうか。

こんな質問をするのは、新聞社や放送局などが加盟する日本新聞協会の新聞用語懇談会で、「ウエスト」か「ウェスト」かの議論をしているからです。

新聞用語では漢字の使い方だけではなく、外来語をどう表記するかも問題です。例えば、二重母音は「ー」を使って書くことを原則にしています。ピッチャーやトランプの「エース」を「エイス」とは書きませんよね。英語の発音記号を見るとエイの方がよさそうですが、日本語としては「エース」です。同様に、雨のときに着るのは「レーンコート」と以前は書いていました。しかし違和感があるだろうということで、毎日新聞は96年「レインコート」に変えました。このように、個別に例外をつくったり変更したりすることもあります。

さて、ウエストの場合は、ウエかウェかです。西のwestはウエストと書く人もウェストと書く人もいるのではないかしら。けれど、胴回りのwaistはウエストと書かれることが多く、発音もウェでなくウエと言いそうに思います。一方、ウオとウォでも、新聞では歩くことをウオーキングと書きますが、「○○ウォーキング大会」などと一般にウォ表記が増えて、食い違いが目立つようになってきました。発音も表記もウィ、ウェ、ウォが多くなってきたのは英語教育が進んできたためでしょうか。

一般に保守的とされる辞書ですが、意外と外来語についてはさまざまです。「大辞林」は西も胴回りもウエスト、水はウオーター、壁もウオールです。「大辞泉」は壁だけウォールで異なります。「広辞苑」はちょっと変わっていて、ほとんどウィ、ウェ、ウォに統一されています。わかりやすいものの、果物の「キウィ」は違和感もあります。

新聞も保守的です。全年代にわかりやすく、何十年も記録されるものとして、表記があまりぶれては困ります。以下のように、これまで地名など固有名詞を除く外来語には、原則としてウイ、ウエ、ウオと書いてきました。しかし最近、新しい言葉、例えば「web site」が登場すると、「例外」としてウェブサイトと書くことにするという対応を取っています。未知の言葉に適用されてこその原則なのに、新たに入ってくる言葉は原則に従いにくいものばかりで、例外が増える一方なのです。そこで、協会で議論が始まりました。

「ウイ」「ウエ」「ウオ」などを含む外来語の例
ウイークポイント ウエット(スーツ)
ウイスキー ウエディングドレス
ウイット ウエルカム
ウイニング(ショット、ボール) ウエルター級
ウイルス オールウエザー(コート)
ウインク カジュアルウエア
ウイング ソフトウエア
ウインター(スポーツ) フェアウエー
ウインド〔風〕 マイクロウエーブ
ウインドー〔窓〕 ロープウエー
ウインナーソーセージ ウオーキング(シューズ)
キウイ ウオーター
ゴールデンウイーク ウオーミングアップ
リビング・ウイル〔生前の意思表示〕 ウオッチャー
ウエート(トレーニング) ストップウオッチ
ウエートレス ファイアウオール
ウエーバー(方式、制) 【「ウィ」「ウェ」となる例外】
ウエーブ ■ハロウィーン
ウエスタン ■アウェー、ホームアンドアウェー<サッカーなどで使う場合>
ウエスト ■ウェブ(サイト)
※現在の毎日新聞の基準。固有名詞などは別扱い

時代が変わったのだから原則をひっくり返してウィ、ウェ、ウォの方を基本にし、よほど定着した外来語のみ例外でウイ、ウエ、ウオも認めるとすべきだ。いや、伝統的に使ってきたウイ、ウエ、ウオが例外だなんておかしい――意見が分かれる中、わたくしが考えたのは、次の「二つの原則」案でした。

「これまでも使ってきた旧来の外来語は基本的にそのままウイ、ウエ、ウオ。新たに外国語を取り入れて片仮名表記する場合はウィ、ウェ、ウォと書く」

この案に対し、これまで使ってきたウイ、ウエ、ウオを例外にしたくないという考えの方からは賛成の声が上がりました。「新しい言葉についてはウィ、ウェ、ウォにしたいが、これまでのウイ、ウエ、ウオを変えると読者も記者も混乱する。この表記を使ってきた責任というものもある」という理由です。反対意見は「原則が二つでは煩雑だ」というものです。ただ、「二つの原則」案では従来の外来語表記はほとんど変えずにすみますが、原則をひっくり返す案は原則が一つでわかりやすいものの、従来の表記の見直しも迫られます。それではと、一語一語について「ウィ、ウェ、ウォに変えられるかどうか」で意見を聞いていくと、「すべてウィ、ウェ、ウォにできる」「週はウィークでも、弱点はウイークポイントだ」「重いのはウエートでしょ」「ウエスタン・リーグという固有名詞もあるからウェスタンにはできない」……と収拾がつきません。

「二つの原則」はわかりにくいけれど、これまでも原則・例外という形で「日本語になった外来語」と「新たに日本に入ってきて、まだ外国語感のあるもの」とを分けてきたのではないのか? 思い起こしたのが「ウエスト・サイド物語」でした。これを言うときにウェストとwestっぽく言うかしら。自分で口に出してみると、ウもエもはっきり発音し、アクセントは平板になります。では、「物語」でなく「ストーリー」をつけて言うと? あら不思議、発音が英語っぽくなってしまいました。わたくしだけでしょうか。でも、こんなところに外来語と外国語の違いが表れていると思うのです。

新聞協会では「ウイ、ウエ、ウオ」についての「原則」をいまだ決められないでいます。みなさんはどう思いますか。
【平山泉】
新聞の言葉遣いなどについてご質問がある方は、当サイト下部の「連絡フォーム」からお寄せください。

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