もうすぐお正月。各地の神社は初詣客でにぎわうことでしょう。ところで「神社に参拝する」「神社を参拝する」のどちらが正しいと思われますか? 今年8月に毎日新聞で、閣僚が「靖国神社を参拝した」と書いたことに対し、読者から「を」は「に」が正しいのではという趣旨のご質問をいただきました。

確かに「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」などは「に」が使われています。辞書で「参拝する」を使った文例を挙げているものはさほど多くはないのですが、調べた範囲では「に参拝する」という例示しか見つかりません。しかし、だからといって「を」が間違いとは断じられません。

2010年に三省堂から出た「てにをは辞典」という本があります。助詞から引く辞書と思いきや、その前後の単語から引いて助詞の使用例を調べられるという「逆転の発想」に基づく辞典でした。「神社」を引いてみると「を 参拝する」とあります。また「に 日参する 詣でる」とも。「神社を参拝する」は間違いではないどころか、「神社に参拝する」の方が書かれていないのです。
てにをは辞典
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「参拝」でも引いてみると「宮城を 皇居を 寺社仏閣を 神社を お宮に 仏閣に 本山に 本殿に」とあります。「神社を」という用例があるとはいえ、全体的には「を」「に」どちらも使われていることが分かります。では、どちらでもいいのでしょうか。

歌人、斎藤茂吉に「遍路」というエッセーがあります(岩波文庫「山の旅」所収)。短い文章の中で「那智権現に参拝し、今度の行程について祈願をした」「今日は那智を参拝して、追々帰国しよう」と、「に」「を」の両方見られる例です。どちらでもいいともいえますが、微妙に使い分けているような気もします。

もともと「に」も「を」も辞書では「動作・作用の対象を表す」助詞となっています。あえてニュアンスの違いを挙げれば、「野に行く」は野に行くこと自体が目標なのに対し、「野を行く」には例えば野を横切って更に進むというような「先の行為」が感じられます。これは「岩波国語辞典」に基づく解釈ですが、斎藤茂吉の文章に当てはめると、その通りに使い分けられていると思われます。

ついでにいえば「神社を参る」だとちょっと変で「神社に参る」の方が自然。しかし「神社を回る」だと「複数の神社」という意味合いとなり「神社に回る」とはできなくなります。これも「を」が「先の行為」をイメージさせる助詞だからでしょう。

さて、靖国神社の場合はどうか。単に行って拝むことだけでよしとするのなら私人として手を合わせるだけでいいはず。政治家が「国会議員の会」までつくって参拝するのは、それだけでなくその行為を通して何らかのメッセージを発しているように見えます。とすると「靖国神社を参拝」の方がふさわしいといえるかもしれません。

もちろん「に参拝」が間違いというつもりはありません。いずれにせよ、来年も政治家(もしかしたら首相)の靖国参拝がニュースになることは間違いないでしょう。来年のことをいうと「おに」が笑うかもしれませんが……。
【岩佐義樹】
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