先日、スポーツ面の読み物である「焦点」に、「予行練習さっそく成果」というやや大きな見出しがついたところ、何人かの読者の方から「『予行演習』の誤りでは?」というメールを頂きました。実はこのご指摘を頂くのは初めてではありません。読者の方だけでなく、記者から指摘されたこともありますし、他部署の者に「外部筆者の原稿に『予行練習』とあるのだけど」と相談されたこともありました。

◆辞書には両方の用例

よく尋ねられる問いですので、答えも既に用意ができています。それは「三省堂国語辞典には『予行練習・予行演習』の両方を用例に示しており、日本国語大辞典は1967年の野坂昭如さんの作品『アメリカひじき』から『その予行練習のつもりか、アメリカ風に牛肉のかたまり冷蔵庫に入れ』という用例を引いています。ですから、どちらも誤りではありません」という内容です。これで一応の答えになっているつもりでいたのですが、今回ご指摘を頂き、やや反省していることがあります。

最初に私がこのご指摘を頂いたのは、はっきりとは覚えていないのですが、10年以上前のことだと思います。回答しなきゃ、と辞書などで調べを進める際、「予行」は「前もって行ってみること。また、そのもの」(日本国語大辞典)で共通なので、「演習」と「練習」の違いをはっきりさせてどちらが適切か考えてみよう、という方針でした。日本国語大辞典の説明を引きます。

【演習】(1)学問、技芸などを繰り返して習うこと。けいこ。練習。
     (2)軍隊で、実戦に慣れ、また、平素訓練した戦闘能力をためすために、実戦の状況を想定して行う、軍事行動の練習。
     (3)大学などの授業方法の一つ。学生に研究発表をさせたり、全員で討議を行ったりするもの。ゼミナール。セミナー。
【練習】学問や技芸などを繰り返し学習すること。また、一定の作業を反復して、その技術を身につけること。

他の辞書もおおむね同じような説明でした。「演習」の(1)(2)には「練習」とはっきり書かれていて、意味の差はそれほど大きくないと考えられます。そうなるとやはり、自分は「予行演習」「予行練習」どちらをどんな場面で使ってきたかを、つらつら考えてしまいました。私は1962年生まれですが、自分がよく耳にしたのは「運動会の予行演習」です。今なら「リハーサル」というところだと思います。この用例から「演習」の(2)の「実戦の状況を想定」に注目、「運動会」の隊列等の連想もあり、「予行演習」には軍隊のニュアンスが含まれているかもしれない、と推測しました。戦後の一般的な日本語には旧日本軍を思わせるニュアンスを嫌う傾向があるようで、私は、軍事的な語彙(ごい)は定着しづらいという印象を持っています。そこで、そのニュアンスを排除するため、時間が経過すれば「予行練習」の用例が増えていくのでは、という見通しを持ちました。確証は何一つないのですが、そういう見通しのもと、前述の「どちらも誤りではありません」という回答を作りました。

◆すわりが良い?「予行演習」

さて、10年以上経過してなお「予行演習」が優勢で、同じご指摘を受けています。「どちらも誤りではありません」というのは誤りでないと思っていますが、私の立てた見通しは誤っていたようです。リハーサルのことなら、「演習」を使わずとも「予行」だけで事足りることに着目できませんでした。それでも「予行演習」が出てくるのは、「予行」と「演習」の結合の度合いが意外に強かったことで、四字熟語のようなすわりの良さがあるからでしょうか。

「予行練習」は誤りではないにしろ、違和感を持たれる方が今後も減らないようでしたら、「予行演習のほうがいいですよ」と筆者に勧めてみることにします。実はくだんの「焦点」には、セ・リーグのクライマックスシリーズであと一歩のところで敗退した中日ドラゴンズが巨人に序盤3連勝できた要因と思われる事柄について、ヤクルト戦の段階で触れられていて、とても興味深い内容でした。違和感でつまずくことなく、日本プロ野球の面白さを読み取っていただきたいと思います。
【松居秀記】

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