校閲グループで運用しているツイッターに、「役所で多用されている『大宗(たいそう)を占める』という言い回しについて書いてもらいたい」という投稿をいただきました。その投稿には「『大半を占める』といった感じの意味合いで使われているものの、どの辞書を見てもどうやらそのような意味はなさそうだ」とも書かれていました。

個人的にはなじみのない表現だったのですが、霞が関で働いている知人に聞いてみると、「大宗を占める」はよく使われていて、確かに「大部分、大半を占める」といった意味だそうです。ただ、国語辞典では、「大宗」は「物事のおおもと。根本。中心となるもの。また、ある分野での権威ある大家」(「日本国語大辞典」2版)という意味で、指摘のように「大部分、大半」といった意味はありません。漢和辞典を調べると用例が中国・前漢時代の古典「淮南子」から採用されている古くからある言葉でしたが、「物の始め、原始」といった国語辞典と同じような語釈が書かれており、やはり「大部分、大半」といった意味は見つかりませんでした。

官公庁の業界用語?

毎日新聞のデータベースや国立国語研究所で用例を集めているコーパスでは、合わせて80件弱の用例があったのですが、辞書にある本来の意味で使われていたのは「のちに長崎蘭学の大宗になる人物」(司馬遼太郎「胡蝶の夢」1979年)、「黒字国の大宗は日独両国」(毎日新聞「経済観測」2006年4月26日付)など数件。それ以外は「世界第2の原油輸入国で,必要量の大宗を海外に依存している」 (「昭和56年版通商白書」1981年)、「預貯金等の安全資産が大宗を占めており」 (「平成14年版経済財政白書」2002年)といった用例で、出典も政府が発行する白書や官僚OBの寄稿がほとんどでした。この結果から考えると、現在では「大宗」という言葉は「大部分、大半」という辞書には載っていない意味で使われることのほうが多く、一種の業界用語といえるのではないかと思われます。

毎日新聞のデータベースは約25年分、国語研究所のコーパスは約40年分を収集しているのですが、それ以前にはどのように使われていたのかを知る手がかりになるかもしれないと思い、国立公文書館のデジタルアーカイブも検索してみました。これはデータベースやコーパスのように全文を網羅しているわけではないのですが、1914年から1966年の間に13件の用例が見つかりました。そのうち3件に「講習会に要する経費の大宗は、ILOの負担」(1952年)といった現在よく使われている意味に近いと思われる用例があり、この3件はいずれも1952年のものだったので、この頃から本来よりも広い意味で使われ始めたのかもしれません。

大宗の意味が本来の「物事のおおもと、根本、中心となるもの」から広がって、「大部分、大半」という意味も持つようになったのは、おそらく、物事の中心を占めるものはその物事の大部分を占めているだろうという発想からでしょう。そう考えるのは日本人だけではないようで、中国語に詳しい同僚によると、現在の中国語の「大宗」には「大口、大量、多額」といった意味もあるそうです。日本語と中国語という違う言語で、言葉の意味が同じように変化していったのは人間の思考の共通点が見えるようで、なかなか興味深いものがあると思います。

誤記しやすいので要注意

余談ですが、ネット上では「大宗を占める」を「太宗を占める」とする誤記が多く、「大層を占める」も散見されます。官公庁以外で使われることが少なく、一般になじみのない言葉であると同時に、現在は「たいそう」とパソコンに入力しても「大宗」という変換候補が出てこない場合が多いせいだと思われるので、要注意ですね。
 【新野信】
(Photo by keyaki)
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