「まさか」という読みも 「まぎゃく」は流行語に

最近、「真逆」と書いて「まぎゃく」と読ませる例をちらほら見かけるように思いますが、皆様はこの表現を実際に使ったことはあるでしょうか? 以前、私はこれで痛い目を見たことがあります。

2003年のことですが、毎日新聞朝刊経済面の囲み記事に「真逆」という表現が出てきたため、当時紙面で連載していた校閲コラムに「『真逆』ってご存じ?」と題する一文を書いたところ、「それは『まさか』と読むのだ」というお叱りを頂き、同じ欄で改めて釈明することと相成ったのです。

後で確認したところ、記事の筆者も「まぎゃく」のつもりだったとのことでした。校閲作業の中でも「見慣れない表現だから『正反対』などに直そうか?」という意見はあったものの、外部筆者の原稿だったため直すのをためらったという経緯がありましたし、私としてもコラムの字数が限られていたとはいえ「まさか」への言及を省いていたのは誠にうかつでした。

ところで、当時の私はラジオ番組で何度か耳にしていたので「真逆」は「まぎゃく」であるとすぐに分かったのですが、それでも書き言葉としての「真逆」を見かけたことは、ほとんどありませんでした。校閲コラムの執筆に当たってネット検索で用例を調べてもみたのですが、上位に出てくるのは「まさか」と読むべき例ばかりだったと記憶しております。

しかし翌年、04年の「ユーキャン 流行語大賞」では「真逆」がノミネートされており、このころからよく耳にするようになったのは確かなようです。ちなみに、このとき一緒にノミネートされたのが「マツケンサンバ」「負け犬」「セカチュー」などで、大賞に輝いたのは「チョー気持ちいい」……当時の世相を思い出すよすがになりますでしょうか。

口語としては浸透してきたが

閑話休題、ではなぜ改めて同じ題材でコラムを書いているのかと申しますと、先日、紙面の見出しに「真逆」を使ったところ、読者の方から「新聞の紙面なのに平気で俗語を使うようでは、言葉の崩れを招くのではないか」とご指摘を頂いたのがきっかけです。それを受けた社内論議でも、見出しでの使用は控えるべきではないか、記事でもできるだけ使わないようにしよう、ということになりました。

まだまだ書き言葉として認められているとまでは言いがたく、強い違和感や抵抗感を持たれることも多いからです。

一方で、国会質疑や会見などで「真逆」を使う議員も登場するなど、話し言葉としては03年当時よりも浸透してきたとは言えるのかもしれません。「俗語」「口頭語」との断り書きを付した上でですが、見出し語として採用する辞書もごく少数ながら出てきました。記事でも、インタビューの引用部分などで「真逆」の使用を避けるとニュアンスが変わってしまうケースも出てきそうで、校閲記者としては頭を抱えて悩むこともあるかもしれません。

歴史を振り返りますと、元々は間違いだった読み方や誤解に基づく語釈が本来の表現を駆逐してしまった例、あるいは新たに生まれた表現が瞬く間に定着した例は幾つもあります。その逆に、一世を風靡(ふうび)した流行語が、いつの間にか消えてしまったということもあります。

新聞とは世相の流れをくみ取る媒体でもあるため、新奇な表現や俗語のたぐいに対してもアンテナを立てておくことは校閲記者にとっても大切なことです。が、同時に「新聞はきちんとした書き言葉、正しい表現のとりでであるべきだ」という原則を自分の中できっちりと認識しておかなければ、変化する言葉の世界に流されてしまうことにもなってしまうでしょう。

「真逆」という言葉は、このことを私に再確認させてくれました。
【百田知弘】

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